2 農業機械安全鑑定適合機の最近の傾向と導入選択上の留意点

(2)歩行型トラクター

生物系特定産業技術研究支援センター 評価試験部 西川 純 氏

1.歩行型トラクターの種類

歩行型トラクターとは、とう載機関の出力が1〜10kW程度の小型二輪(一輪もあり)のトラクターで、耕うん機、パワーティラーとも呼ばれている。歩行型トラクターは、その用途・構造から分類して、駆動型、けん引型、兼用型、管理機専用機の4つに分類できる。駆動型はロータリーを装着し、耕うん作業を主体に、けん引型はプラウやトレーラーなどをけん引して作業を行うことを主体とする。兼用型はこの駆動用の作業機とけん引用作業機を付け替えることができ、各種の作業を可能としたものである。管理専用機は、耕うん・けん引作業の他に中耕・培土・畝立て等が可能であり、ロータリー式や車軸耕うん式など、ユーザーの使用条件に合わせて選択できるようになっている。農研機構・生研センターが実施する安全鑑定における過去10年間の受験機のうち約85%が管理専用機となっており、駆動型、けん引型及び兼用型は少なくなってきている。

2.とう載機関の特徴

とう載機関は、ガソリン機関が多いが、機関出力が4.5kW以上ではディーゼル機関のものもあり、車両重量は作業機と合わせると300kgに達するものもある。管理専用機ではガソリン機関のほか、最近では、家庭用コンセントから電気をバッテリーに蓄電し、モータで駆動するものや、カセットボンベの液化ブタンを燃料とするものも登場してきている。近年の特徴として、家庭菜園などのホビー農業を対象とした小型管理専用機が多く登場しており、小さいものでは、機関出力1kW以下、重さ15〜20kg程度と軽量で、女性や高齢者でも扱い易いものとなっている。

取扱性・操作性について

機関から車軸、作業機に動力を伝達するための主クラッチには主にベルトテンションクラッチが用いられている。一部の管理専用機では、遠心式クラッチを利用し、回転速度の増減で動力の断続を行う形式も見られる。クラッチ操作レバーについては、ハンドル左側に位置し、前後に操作するレバーや、ハンドルを握ったまま指で操作できるクラッチレバーを装備するものもある。また、手で押さえ、あるいは握ったりしているときに動力が伝達され、手を離せば断たれるデッドマン式クラッチを採用しているものもある。管理専用機の多くは、取扱性を良くするため、ハンドルの高さ調節が可能なものや、運搬時等にハンドルを折りたためるもの、作業に合わせてハンドルを回動し、機体の前後が逆になるものがある。

安全性について

農林水産省の農作業死亡事故調査結果(平成22年)によると、農業機械による死亡事故件数275件のうち、歩行型トラクターによるものが50件と全体の約18%を占めており、農業機械の中では乗用型トラクターに次ぐ事故件数となっている。歩行型トラクターに係る事故の多くは後進時の挟まれ、回転部への巻き込まれが原因である。安全鑑定では安全に係る基準を設け、一定以上の安全性を有するか判定している。歩行型トラクターに係る代表的な安全装備及び装置を以下に紹介する。

①緊急停止装置

歩行型トラクターで多い事故の一つに、前進・後進の変速を誤り、後部障害物に挟まれてしまうことが挙げられる。不測の事態に対して使用者がパニックに陥り、通常の停止操作に時間を要してしまう場合があるため、後進が可能な機械については、作業者の手の届く位置にワンタッチで機関を停止させる緊急停止装置の装備が義務付けられている。

②デッドマン式クラッチ

デッドマン式クラッチとは、クラッチを握っている間は動力が伝達され、手を放すだけで動力が遮断される構造のクラッチを指す。作業者が転倒するなど、不測の事態が生じた場合には、クラッチレバーから手を離すことで機械の動きを止めて事故を防ぐことができ、緊急停止装置と同様の安全性が確保されている。近年では、このデッドマン式クラッチ採用した機種が多くなってきている。

③ハンドル回動時の高速けん制装置

安全鑑定では、歩行用トラクターの最高速度を前進、後進それぞれ7.0km/h、1.8km/h(後進で作業を行うものは、2.5km/h)を超えないよう定めている。前述したハンドルを回動可能なものは、走行レバー操作も前後が逆となるため、誤って高速で後退してしまう危険性がある。そのため、ハンドルを標準位置から90度以上回動させることができ、回動させた状態のときに作業者が後退して作業するものにあっては、その方向の速度が2.5km/hを超えない構造にすることと定められている。

④ロータリー後部カバー

歩行型トラクターは、足元に近い位置でロータリーが回転しているため、つま先を近づけてしまうと回転部へ巻き込まれる危険性がある。そのため機体と作業者の間にロータリーが装着されるものについては、ロータリー後部のカバー下側の開放端から耕うん爪下端までの垂直方向の間隔が25mm以下でなければならない。

⑤ロータリー停止装置

機体と作業者位置との間にロータリーがあるものについては、後進時に足が挟み込まれる危険性があるため、後進時にはロータリーが回転しないか、ロータリーの回転時は変速レバーが後進位置に入らないような構造となっている。車軸耕うんロータリーを標準装備している機種では、デッドマン式クラッチなど自動的に動力が遮断されるものを除き、原動機を用いた後進ができない構造となっている。

5、導入選択・使用時の注意点について

歩行型トラクターを導入する際は、作業内容、経営面積など検討したうえで、種類・大きさを選定する必要がある。前述のとおり歩行型トラクターは、死亡事故の多い機械の1つとなっている。近年の機械は安全装備が充実してきているが、小さい機械だからと侮ることなく、使用前には取扱説明書を熟読し、歩行型トラクターの特性に十分留意して、安全な作業を心掛けて頂きたい。