本日は、日本農業の状況を振り返った上で、機械化の歴史、普及の状況と労働時間の削減、緊プロ事業、機械化でどうなったかをみていきたいと思います。最後に農業機械の歴史と未来ということで、将来どうなっていくのかという話をさせていただきます。
農業の現状をみる
 始めに農業の状況ですが、農業の総産出額は、1960年頃には1兆9000億円だったものが、現在8兆7000億円ぐらいになっています。農産物の輸入額は1960年代には9億ドルだったものが、現在575億ドルで国内の農業生産と近い額になっています。国民1人当たりの食費は2000年のデータで30万円ぐらいです。 耕地面積は、1960年に607万haあったものが、現在は471万haということで、4分の3ぐらいに減少しています。農業就業者人口は、60年に約1200万人であったものが、現在は260万人、4分の1ぐらいに減少しています。そして、65歳以上の占める割合が、1975年には14%であったものが、現在は57%となり高齢化が進みました。
ここから50年間の機械化の歴史、概略をたどっていきたいと思います。 (別表参照)
労働時間の減少に貢献した機械化
次に農業機械の普及と労働時間についてみていきたいと思います。 グラフからわかるように、歩行トラクターだったものが、1970年頃から急速に乗用トラクターにとって代わられています。それから、田植機、コンバイン、乾燥機といった機種は、1980年頃をピークに下がってきていますが、下がっていくというのは農家戸数の減少に伴って台数が減っているということだろうと思います。 続いて労働時間をみていくと、水稲と麦については、1957年頃、ちょうど50年前、この時に水稲ですが、10a当たり180時間かかっていたものが、今日では30時間になっています。5分の1に労働時間が減ったというのは、まさに機械化の効果だと思います。麦のほうは、57年に116時間だったものが、2005年には5.6時間ということで、こちらはさらに画期的に20分の1ぐらいに減っています。20分の1に減る水稲との大きな違いは、田植えのための苗の準備が大きく作用していると思います。 同じ水稲でも中山間地はどうかというと、中山間地のデータという統計がありませんので、50a以下の経営規模のものを仮に中山間地と置いてみた例でが、下がってきてはいるんですが、中山間地のものと全国平均の比を取ってみると、1957年頃には、中山間の方が、十数%余計に時間がかかっていたのが、最近では5割ぐらい余計に時間がかかっているということで、中山間地は機械化から遅れを取って、おいていかれた気味があるのではないかと推定されます。
機械化が遅れた野菜・果樹作
次に野菜、果樹の方に目を転じてみたいと思います。 労働時間のトレンドをみますと、ネギでは1995年からかなり下がってきています。ネギに関してはそれなりの機械化が進んできたと思われます。それからキャベツですが、こちらの方は、ネギほどは機械化が進まずに、1975年ごろまでは他の作物と同様に耕うん機とかのベーシックな機械の導入によって労働時間が減っているのですが、それ以後あまり労働時間の減少にはつながっていません。一方、ハウスですが、ハウスは機械化だけでなく、栽培方法、例えば水耕栽培ですとか、そういった努力や品種の改良、仕立て方の改善といった栽培面の改良もあって、徐々にではありますが栽培時間が減少しています。ミカンについては、余り大きな労働時間の減少はみられないという状況になっています。
未機械化分野での機械開発を進めた緊プロ事業
例えば労働時間の減少が進まない大きな理由として、おそらく機械化の遅れがあったのだと思ます。なぜ機械化が遅れたかということを考えますと、例えばミカンのようなもの、これは、既存の機械技術ではとても選択的な収穫というのはできないということがあげられます。それが、1つの原因です。もう1つは、例えば野菜の中で非常に大きな面積で栽培されているものにキャベツがありますけれども、これが大体3万3000haぐらいで、水稲の50分の1ぐらいでしょうか。仮にキャベツのための収穫機が、5haぐらい収穫できる完璧なものができたとして、100%普及したとして、3万3000haですから、トータルで6600台ぐらいしか普及しないわけです。田植機やコンバインといったものが100万台を超えて普及したのと比べ、最大でも6600しかありません。しかも非販売農家を含めると半分位がいいところでしょう。そうすると3300台。これを10年がかりで普及すると、毎年330台ということで、なかなか商売になりにくいし、新たに開発するためにはとてもリスクが大きい。そういうことがあって機械化が進展しなかったものと考えられます。 従ってこういったことから緊プロ事業が1993年にスタートしています。この緊プロ事業は、農業機械等緊急開発事業というのが正しい呼び方で、「新しく画期的な発想に基づく高性能農業機械の開発・実用化のための緊急プロジェクト」です。野菜の機械といったようなもの、台数が出ない分その開発リスクをある程度国がみていこうということでスタートした事業です。 この事業でネギの収穫機や全自動野菜移植機、畜産関係では搾乳ユニット自動搬送装置などが開発されてきました。 数が出ない機械の他にも、新しく画期的な発想で、新しい技術の開発、これはこれでリスキーな部分がありますので、土地利用型の関係、水田、畑作でもこの緊プロ事業は適応されています。大型汎用コンバインですとか、穀物遠赤外線乾燥機ですとか開発されてきました。
農業機械化の経済効果を試算する
ここで機械化がどういう役割を果たしてきたかという効果分析をしてみたいと思います。 機械化で労働時間が減ったということをベースに試算してみます。機械化一貫体系で水稲を作った場合の話ですが、1965年頃の労働時間は10a当たり141時間でした。それが現在は30時間で4分の1に削減されています。そして耕作面積は当時344万haでしたが、現在254万haになっています。これを1ha当たりに換算して、1410時間から300時間、現在の時間を引くと、それだけの時間が浮いたはずですから、これを耕作面積の平均的な数値300万haに掛け合わせると、トータルとして毎年33億時間ぐらい削減できたということになります。33億時間を労働者1人当たりの労働時間を年間2000時間とみて、それで割ると160万ないし170万人分ぐらいの労働力を他産業もしくは他の農業分野に供給することができた。農業機械化によってこういう大きな効果があったということがいえると思います。経済効果としてみますと、この33億時間に時給1500円をかけると毎年5兆円ぐらいの経済効果があったといえるのではないかと思います。こんな試算もできると思います。 また、農業機械の生産高についても、物価を反映させてみてみると、75年からすでに右肩下がりで落ちてきています。最近、農業機械メーカーさん、皆さん苦しい苦しいと言われますが、この頃そんなに苦しいと言わなかったのは、この間に企業努力が大変なされてきたのだと思います。1つは生産の合理化、あるいは、営業努力ということもあるでしょう。それが95年ぐらいには限界に来て、企業努力だけではどうにもならない状態になってきたのではないかという感じがします。特に、95年から2000年にかけて落ち込んでいます。2000年くらいからは、意外と安定しており、安値安定という感じになっています。
歩行型から乗用、そして半無人化時代へ
農業機械の発達の歴史をみてきますと、1950年ぐらいまでは、人、畜力、風力というものを動力としていた、農機具の時代だったといえます。50年代から75年ぐらいにかけて、動力が、エンジンとか電気モーターとかを、例えば人力脱穀機に装備して、動力脱穀機にしていく、動力ポンプにしていくというところから始まって、歩行型トラクターやバインダーといった歩行型の機械が急速に伸びており、この25年間が「歩行型の時代」だったと考えられます。 そして75年から2000年までの間は歩行型の機械が乗用型に変わっていって、いわゆる3種の神器が急速に進展していった「乗用型の時代」です。その同じ25年の間でも最初のころに比べて、トラクターなどもどんどん大きくなり、高馬力、高能率化していっています。一部の作業ですが、メカトロ化、自動化、高速化が急速に進んでいます。コンバインなどは、他の産業機械でも例をみないほど高度に自動制御がなされている機械だと思います。 2000年ぐらいから、緊プロ等を通じて、一部ではありますが、ケーブル誘導防除機ですとか、接ぎ木ロボット、搾乳ロボットというようなものも農業現場に入るようになってきています。だんだん人が乗らなくてもいい、あるいはロボット化された機械、そういったものがそろそろ始まっているように感じます。「半無人化時代」とでもいうのでしょうか。ただし、機械だけに作業をさせておくというのではなくて、人と機械との協調作業というケースが、現実には多くなっていくものと思われます。 今後はよくわかりませんが、ロボット化時代というのを迎えるのかもしれません。農業ロボットが中心の作業が行われて、例えばミカンの収穫といったような選択的な作業、一律に作業することができない、そういったものも機械化が進んでいくのではないかと思われます。
これからの農業機械に求められるニーズ
農業機械分野への要求としては、まず第1に野菜や果樹などが中心になっていくかと思いますが、機械化されていない分野を機械化していくこと、これが大きな課題になると思います。特に昔の技術では機械化できなかったところが、ロボット技術、あるいは、メカトロ技術によって、機械化できていくという時代になるのではないかと思われます。 2番目に、すでに水田関係の機械は出来上がっている、何もすることはないといわれますが、そうではなく、さらに生産性をあげていって、所得増大に直結するようなそういう機械化が不可欠だと思います。そのことが単に機械の値段を安くすればいいということではなく、機械をどう適正に使っていくかという、利用ソフトの部分の充実も含めた、画期的な機械開発がやはり必要なのではないかと思います。 3番目には、労働環境の改善と作業の安全性・快適性向上ということで、農業をやっている者が外で、労働環境の悪いところで働いて当たり前なんだというようなことでは後継者は絶対来ませんから、なるべく、ホワイトカラー並みとまではいかないまでも、労働環境を改善すること。それから事故の起こらない作業現場になること。このことが大きなキーワードになってくるのではないかと思います。 これらを達成するために具体的には、どういう技術があるかといいますと、これまで製造業で培われてきたメカトロ技術だとか、ロボット技術、こういったものを導入することが1つの手法かと考えています。
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