●ロボット農機安全コーナー
1.ロボット農機の安全性確保策検討のためのコンソーシアムについて
農林水産省は、平成25年11月にスマート農業の実現に向けた研究会を設立し、ロボット農機やICTの活用による近未来農業について、その実現に向けた検討を行ってきました。中でもロボット農機に関しては安全確保をはじめとしたルール作りについて重点的に検討がなされ、その成果として安全性確保ガイドライン(案)が平成28年度に策定されました。さらに同年、当該ガイドライン(案)の有効性を、実証試験等を通じて検証することを目的に、農林水産省の補助事業「農林水産業におけるロボット技術安全性確保策検討事業」が開始されました。
本コンソーシアムは、ロボット農機に関する安全性の確保に貢献するため、日本農業機械化協会が代表機関となり、研究機関、民間企業等を構成員として組織したもので、平成28年度より当該事業の採択を受け、爾来令和6年度も引き続き事業を実施しています。
2.公表物・参考資料
コンソーシアムでは、関係の皆様に向けた安全啓発活動として、ロボット農機の安全に関する資料等を公表しています。
1)農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン(農林水産省ホームページ)
最終改正:令和6年3月27日
内容:ほ場内やほ場周辺から監視しながら農業機械(ロボット農機)を無人で自動走行させる技術の実用化を見据え、安全性確保のためにメーカーや使用者が遵守すべき事項等をまとめたガイドラインです。今回新たに遠隔監視により使用するロボット農機(トラクター、茶園管理機械)に対応する改正が行われました。
2)ガイドライン解説パンフレット(令和5年3月版)
内容:上記ガイドライン(令和5年3月版)をわかりやすく写真・イラストで説明したパンフレットをコンソーシアムで作成したものです。
3)ロボット農機の安全性確保のための日農工が定めたガイドライン等(一般社団法人日本農業機械工業会ホームページ)
内容:一般社団法人日本農業機械工業会が、ロボット農機利用の際の安全性を確保し、その円滑な普及を図るため、上記ガイドラインに則した業界の指針を決定したものです(農用トラクターをほ場内で自動走行させて農作業を行う場合に適用)。
3.コンソーシアム取組概要
令和6年度
- ・コンソーシアム構成は令和5年度と同様に10者構成で、遠隔監視の新たな機種(コンバイン)及びほ場間移動を含む遠隔監視ロボット農機のガイドラインへの追加に向けた検討を行っている。
令和5年度
- ・コンソーシアム構成は、令和4年度と同様、農機及び関連メーカー6社、鹿児島県農業開発総合センター、農研機構農業機械研究部門、秋田県立大学及び日本農業機械化協会(本会)の10者構成で実施した。
- ・遠隔監視を含むガイドライン改正素案(令和4年度成果)をベースに現地実証試験方法を提案し、検討委員を含むコンソーシアム関係者に実演、意見交換会を開催した。試験方法はコンソ各社の実証試験に活用されている。
- ・構成各社においてそれぞれリスクアセスメントを実施し、それに基づき現地実証試験を実施した。以下に得られた具体的内容を示す。
- ・大型モニター(31.5インチ)を用いた監視による障害物の色や走行速度の違いによる視認性や死角の存在などについて検証し、安全性が確認された。
- ・エッジによる安全性確保がなされていればタブレット端末(10.1インチ)においての遠隔監視は可能と判断した。
- ・障害物を検知した際の警告音、パトランプの効果を検証した。
- ・現場オペレータと遠隔監視者の両者が自動運転を再開できる場合は、権限の輻輳によるリスクが生じる可能性があった。
- ・複数台を同時にモニター監視することは困難でありロボットによるエッジ監視の信頼性確保が重要である。
- ・トラクター及び茶園管理機械の遠隔監視を含むガイドライン改正案についてコンソーシアム内及び事業検討委員会で検討を重ね、ガイドライン改正案として農林水産省農産局長へ提言した。
- ・この結果、年度末の令和6年3月27日付で農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドラインの一部改正(農林水産省ホームページ)として公表された。
令和4年度
- ・コンソーシアム構成は、令和3年度と同様、農機及び関連メーカー6社、鹿児島県農業開発総合センター、農研機構農業機械研究部門、秋田県立大学及び日本農業機械化協会(本会)の10者構成で実施した。
- ・構成各社においてそれぞれ遠隔監視下におけるリスクアセスメントを実施するとともに安全性確保策の有効性等について以下のような実証試験を行った。
- ・監視モニターの課題、視聴覚的アラートの効果、複数台監視における非常停止機能等を検討した。
- ・ほ場間移動において、走行時期による植生や道路わきへの収穫物の一時堆積等により接近検知センサーの誤作動が頻繁に生じることがあり、センサーフュージョンによる安全センサーの信頼性の向上が必要であった。
- ・トラクター側及び遠隔監視装置側の通信環境・通信システム(LTE単独、LTEボンディング、Local5G等の組合せ)の違いによる映像伝送の遅延や欠落が障害物検知と措置遅延に及ぼす影響を調査した。停止措置がトラクターに届かない場合が生じるケースがあり、遅延のあることをシステムが認識し自動運転を停止する等何らかの対策が必要である。
- ・2台のロボットトラクターの遠隔監視中でのイレギュラー挿入、遠隔再起動等の運用場面で監視者のモニターによる監視能力の検証や必要な安全要件の抽出を目的とした複数ロボット農機のリスクアセスメント実証試験方法を検討した。
- ・コンソ各社のリスクアセスメント・実証試験の結果を踏まえ、ほ場内を自動走行するロボット農機を遠隔監視する場合に現行ガイドラインに規定する目視による監視に加えて必要となる安全確保策や関係者の役割を安全性確保ガイドライン素案として取りまとめた。
- ・近々に実用化が期待されるコンバインについてリスクアセスメント及び安全性確保策について実証試験等を行い、ガイドラインへ新たに加える機種として、必要な安全性確保策を農林水産省へ提言した。その結果、令和5年3月29日付ガイドライン改正(ガイドラインの一部改正:農林水産省ホームページ)に反映された。
令和3年度
- ・検討対象ロボット農機がトラクター、茶園管理機械に絞られたこと等から、ロボット草刈機メーカー2社、自走式小型汎用台車メーカー2社及び長崎県農林技術開発センターがコンソーシアムから外れ、コンソーシアムは10者構成となった。
- ・ロボット農機の現場導入の拡大に伴う使用例の増加等から、現行ガイドラインの使用方法に関する規定「ほ場内やほ場周囲から監視する方法」を「ほ場内やほ場周囲等の目視可能な場所から監視する方法」に適用範囲を拡大すること及びロボット農機の作業領域内に立ち入ることができるものについて、現行規定では「使用者、補助作業者」限られるがこれを「使用者、補助作業者、配置の必要な他の農業機械」に拡大することが適当であると提言した。これらの提言は、令和4年3月28日付で(ガイドラインの一部改正(農林水産省ホームページ)に反映された。
- ・遠隔監視下における自動走行に対応したガイドラインの制定に向け、当面検討の対象とする機種をトラクター及び茶園管理機械とする新たなガイドラインの構成案を提言した。
- ・遠隔監視下におけるロボット農機の完全自動走行に向けた検証及び安全性確保策の検討が現地試験を含めコンソ各社で実施し、自動停止機能のロバスト化、夜間作業を含む遠隔監視映像の視認性調査、遠隔監視におけるアラート、現場作業音声モニタリングの有効性などを検証した。また、通信環境と監視映像の遅延について現地検証を行った。
- ・ほ場間移動は、農道とその周辺環境により遠隔監視映像に死角が生ずる場合があることを実証した。ほ場から農道への進入、農道走行の現地試験により監視カメラの最適設置場所を検討した。
- ・ロボット農機の安全性に関する国際規格、諸外国における安全性確保策の制定及び検討状況を調査したところ、諸外国において小型・大型のロボット農機が実際に使用されていること、公道での無人運転の例はないことなどが明らかになった。
令和2年度
- ・構成員は、前年度の13者に自走式小型汎用台車メーカーの(株)エムスクエア・ラボ及び(株)DONKEYを加えて15者となった。
- ・検討委員会での議論をもとに新たな対象機種として自走式小型汎用台車を加えることや一時的にモニター等による監視を行う場合に必要な安全確保策などをガイドラインに加えることなどの提言を取りまとめた。その内容は令和3年3月26日付けでガイドラインの一部改正に反映された。
- ・ロボットコンバインに関して実証試験を含む検討を行い、前年度策定した、「衛星測位情報を利用して自動走行するコンバイン(ロボットコンバイン)に係る危険源及び危険状態に関する整理表及びその対応策例(素案)」を改定した。
令和元年度
- ・構成員は、前年度の12者にロボット草刈機メーカーとして(株)筑水キャニコムを加え13者となった。
- ・検討委員会での議論をもとに新たな対象機種として田植機、草刈機を加えることなどの提言を取りまとめ、令和2年3月27日付けでのガイドラインの一部改正に反映された。
- ・近い将来の実用化が期待されるロボットコンバインについて仮想的なリスクアセスメントを行い、「衛星測位情報を利用して自動走行するコンバイン(ロボットコンバイン)に係る危険源及び危険状態に関する整理表及びその対応策例(素案)」を作成した。
平成30年度
- ・構成員は、前年度の8者に長崎県農林技術開発センター、秋田県立大学、(株)日本計器鹿児島製作所及び三陽機器(株)を加え12者となった。
- ・前年度の検討機種に加えて、ロボット草刈機及びロボット田植機を新たに検討対象とした。
- ・検討委員会での議論をもとに、ガイドライン改訂の必要性を検証した結果、現時点でのガイドラインの改訂の必要性は認められない、とされた。
- ・一方、事業で取りまとめたロボット草刈機及びロボット田植機に関する危険源及び危険状態に関する整理表は、今後これらの機種を開発しようとする際の安全チェック事項として有用と考え、公表することとした。
平成29年度
- ・構成員は、前年度の6者に鹿児島県農業開発総合センター及び松元機工(株)を加え8者となった。
- ・ロボットトラクターに加えて茶園管理機を新たに検討対象とし、また、有人監視を更に進めた遠隔監視についても検討対象とした。
- ・検討委員会での議論をもとに、提言を取りまとめ、その内容は、平成30年3月27日付けでガイドラインの一部改正に反映された。
平成28年度
- ・(国)農研機構・革新工学センター、井関農機(株)、(株)クボタ、三菱マヒンドラ農機(株)、ヤンマー(株)及び(一社)日本農業機械化協会の6者が「ロボット技術安全性確保策検討コンソーシアム」を設立した。
- ・検討対象機種として、ロボットトラクターを選定した。
- ・北海道大学の野口伸教授を座長として、他産業におけるロボット安全の専門家、労働安全の専門家、生産者等を委員とした検討委員会を定期的に開催し、ロボット農機の安全性確保策について様々な角度から議論が行われた。
- ・検討委員会での議論をもとに、提言を取りまとめた。その内容は、農林水産省のガイドライン(案)の修正に反映され、平成29年3月31日付け生産局長通知「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)として公表された。