機械化農業の生産体制
稲の生産技術と機械化営農作業体系●
圃場準備作業
移植・除草・防除作業

収穫作業
収穫後処理技術

圃場準備作業
 基本的に耕耘2回、砕土均平(代掻き)1回が圃場準備作業であるが、農家は人力で畦畔の補修等の仕上げ作業を行っている。潅漑設備は古くなっているが、農家は計画経済からの意識がまだ残り、「潅漑設備は国が面倒を見てくれる。」との意識が強く、整備状況はよくない。随所にある「溜め池:タンク」も管理が悪く、貯水能力は低減している。
 アジアの他の国と違うことは、一般に田越し潅漑が主流であり、恵まれた給水条件でポンプの普及が進んでいないことである。農業機械販売店には輻流ポンプがわずかに並べられており、ポンプ揚水を行う農家もあることが伺われた。センターでは足踏みポンプが開発されており、野菜栽培や中・北部の半乾燥・乾燥地域での水量が乏しくなるヤラ期の揚水作業での普及を図っている。農地支援開発局のサービスの中にもポンプのリースはない。

2001/2002年マハ作における圃場準備作業は、全国平均で76.6 %が機械耕であった。機械耕が遅れている地域は、バドゥーラ・ケガレ・キャンディ・ラトゥナプーラ等の中山間地や経営面積の小さい南部地域である。特に畜力耕の面積は1985年の約30 %から2001/2002年には10〜12 %に激減してきた。図1に圃場準備作業手段の推移を示す。(出典:財務計画省センサス統計局)


農機具販売店

足踏みポンプ



移植・除草・防除作業
  多くの農家が催芽種子の密植直播(Broad Casting:バラマキ)を行っており、2001/2002年マハ期作の全国平均で90.1%が直播であった。移植・除草作業コストの低減のため、また密植による雑草の生育を押さえる営農を行っているが、手除草作業・除草剤使用・冠水除草・非除草の面積的比率は、2001/2002 マハ期でそれぞれ17.4 %、76.6 %、1.4 %、4.6 %であり、除草剤利用面積は大きい。マハ期播種作業の推移を図2に示す。
(出典:内務省センサス統計局 Paddy Statistics -2001/2002 Maha)

写真7 背負い式手動噴霧機
防除作業は背負い式の噴霧機が多く見られる。1998年マハ作において殺虫剤は面積比で72.5 %が使用しており、殺菌剤は27.4 %が利用している。マハ作の農薬の普及状況の推移を表6に示す

表6 マハ作の農薬普及状況の推移(面積比)
防除作業 1989年 1995年 1996年 1997年 1998年
殺虫剤利用 69.80% 76.70% 66.30% 63.20% 72.50%
殺虫剤否利用 30.20% 23.30% 33.70% 36.80% 27.50%
殺菌剤利用 24.10% 25.40% 21.40% 20.60% 27.40%
殺菌剤否利用 75.90% 74.60% 78.60% 79.40% 72.60%

収穫作業
 在来の収穫は、鎌で刈り取った稲を2〜3日地干して、圃場内または庭先脱穀場で牛・水牛の踏圧による脱穀が主体であった。コンバインによる収穫請負(コントラクター)もあり、近年では踏圧脱穀にはトラクターが使われるとともに動力脱穀機が普及している。脱穀機とトラクター(踏圧)の賃貸による官・民のシステムもあり、機械化が進んでいる。中国製の2輪トラクター装着コンバインが販売されており、研究所もこのコピーを開始していた。


写真8 中国製歩行型コンバイン

 収穫後処理技術
 収穫後の降雨や排水の悪い圃場では落水後圃場乾燥が進まず、まだ水の残った圃場で地干しされている風景が見られる。そのまま脱穀して袋詰するため籾の品質劣化が激しい。多くの農家は天日乾燥場を持っておらず、高水分のため仲買人に安く買い叩かれている。アジアの稲作国での潅漑行政は給水だけで、排水に対する配慮はほとんどない。スリランカも同様で圃場の排水設備の改善が必要であるが、このためには多大な投資と時間が必要とされる。
 乾燥籾の風選にはパワーティラー装着用扇風機が使われる。羽根がむき出しであり、極めて危険であるが、Rs 3,500と安価でもあり広く普及している


扇風機装着パワーティラー (カバーのついていないタイプが多い)

協同組合の融資制度の中で、収穫後処理技術改善で小規模精米業に対する融資が行われている。種子生産農場では天日乾燥場は標準装備され、英国の乾燥機(保有量が1トン位)が備えられているが、所要動力(電力)が大きいためほとんど利用されていない。



種子農場のイギリス製乾燥機と中国製パワーティラー

スリランカの国民は、乾燥後の籾を水に浸漬・蒸煮後再乾燥した「パーボイルドライス」が常食にしている。仲買人や精米業者がこの設備を持っているが、多くは在来の処理法の設備である。精米所で発生する籾殻は、パーボイル処理用の燃料として活用されている。また、レンガ焼きの燃料としても貴重な燃料である。

仲買人・精米業者もパーボイル設備と連携した天日乾燥場を持っているが、蒸煮用ボイラー熱を利用した乾燥機が見られる。高水分生籾を対象とした設備ではない。(平成2年度 食糧庁 ODA・穀物の収穫後処理技術推進事業 技術手引書および海外農業事情調査報告書 インドネシア・フィリピン・スリランカ)


種子農場の天日乾燥場

1997年に政府価格で籾を買い入れていた米穀流通公社(Paddy Marketing Board: PMB)が閉鎖され、政府価格補償制度が廃止されて自由化となり、米流通の実態がタミル人に握られ、籾価格が低迷したことにより農家の米生産に対する意欲が減退している。現在、政府買上げ米は全体の2 %までに押さえられており、直接的な政府の関与は無くなっている。スリランカの米の流通概要は図3に示すとおりである(稲作研究所での聞き取り調査)。中央卸売市場の精米卸売価格(2003年1月24日現在: Daily News 1月27日)と聞き取りによる農家販売価格を表7に示す。
 新聞報道によると北部との和平が進んだことより生産資材の流通がよくなり、北部の生産が好転したため、今作期の生産量が20 %増えた。また、政府は籾価格がRs 13.5以下では販売しないよう訴えており、籾価格がそれ以下となった場合は、サムルディ銀行の「「アラヴィサヴィヤ計画:Alavi Saviya Program」による融資制度が活用できる(2003年1月28日、Daily News第1面)と報じているが、聞取り調査による籾価格はRs13.5以下であった。


農業機械研究センターで改良された脱穀機

 収穫後処理におけるロスが大きいため(農業局聞取りでは約20 %)、農地支援開発局は、収穫後処理技術の改善の必要性を強く持っているが、政府の方針がWTO問題と絡んで明確でないことに注意しつつ、単に収穫・収穫後技術の協力でなく、流通システムを通しての協力が必要である。今回の調査ではアヌラダプラにある収穫後処理技術研究センターは時間の関係で訪問できなかった。脱穀・乾燥・精選・貯蔵・パーボイル処理・籾摺精米技術の改善が急がれているが、流通の合理化、流通インフラも含んだ取組みが必要である。現在インド・パキスタンから米が輸入されている。収穫後技術が改善され、和平後の北部での米生産が軌道に乗ると自給が達成できるであろう。


表7 米の価格概要
区 分 単価(Rs / kg)  
  1月 1年前
農家販売価格 9〜13 /kg籾  
  14.4〜16.8 /kg種籾  
卸 売 (ペター) 43.0 ? 46.0 /kg精米 サンバ 種(Samba) 38 - 46 /kg精米
1月27日 28.0 ? 29.0 /kg 精米 ケクル種(Kekulu) 27 - 30 /kg精米
小売 48.0 /kg 精米 サンバ 種(Samba) 39.10 /kg精米
1月24日 34.0 /kg 精米 ケクル種(Kekulu 39.10 /kg精米
出典: Daily News(2003年1月28日版)、スリランカ中央銀行