農業機械の発展過程と現状

●農業機械化行政組織と活動
●農業機械の生産と輸出入
●農業機械の普及・利用形態

●農業機械化のための農村金融・資金調達

(1)        農業機械化行政組織と活動
 スリランカの農業は、南西部の湿潤地帯・北東部の乾燥地帯の気候条件のもとスリランカの潅漑事業は古い歴史があり、随所に溜池があり、半湿潤地帯・乾燥地帯の農業に大きく貢献している。近年、こうした中で多作化・兼業化が進み、農業労働力不足、労賃の高騰ともあいまって畜力営農は急激に衰退して中山間地に残るのみとなっており、機械化営農が進んでいる。

機械化行政は、農業畜産省農業局のもと国営農場(試験場・種子農場)において展示・実演による普及・教育、農地支援開発局(Agrarian Service and Development)は、営農集団・協同組合育成の中で農業機械による作業請負をサービスすることで普及を図ってきた。地方試験場・国営種子農場は農地支援開発局の作業請負事業とともにスリランカ機械化営農の普及の大きな柱となっている。

北中部州の州都アヌラダプラから約1時間南下したマハ イルパラマ (Maha Illuppallama)に農業局傘下の農業機械研究センター (Farm Machinery Research Center:FMRC)があり、現在では水田用播種機・歩行型コンバイン(中国のコピー)等を中心に現地に適応する農業機械・農具の研究開発・普及が行われている。アヌダラプラ市内には収穫後処理技術センターがあり、アヌダラプラ地域は農業機械化研究の中心となっている。

人力作業は、労賃の高騰で農業労働者の確保および生産コストへの負担が大きく、移植・除草作業を中心に低コスト型営農が普及しており、農業機械化、高密植直播(ばら蒔き)でこれらの生産コスト低減に対処している。

写真2 農  具 写真3 播種機

(2)        農業機械の生産と輸出入
 @    農業機械生産
 2輪トラクター(パワーティラー)は、日本から大量の中古品、中国から新車が輸入されていることもあり、エンジン・シャーシー・減速機等の製造は行われていない。
 農業機械の国内生産は、表1に示すようにトレーラー・水田車輪メーカーが10社、ポンプメーカーが4社、噴霧機のメーカーが2社あるのみであるが、地方の町工場においては、農業機械研究センターから提供される図面で改良農具や人力機械を製造するところもある。
 トレーラーの店頭価格はRs 35,000、プラウ Rs 37,500、風選用パワーティラー装着扇風機 Rs3,500である。

 A    農業機械の輸入
 スリランカの農業機械輸入会社は約150社あるが、新車を輸入しているところは大手の数社であり、大手5社を表2に示す。ほとんどの輸入業者は零細な中古かスクラップを扱う業者である。1998年からの中古を含む2輪(パワーティラー)および4輪トラクターの輸入台数の推移を表3に示す。毎年約1万台以上輸入されているが、その内の新車の数は数100台とのことである。その他の農業機械では、日本・イギリス・インド・トルコ・中国・オランダからの約1,000〜2,000台輸入されているが、農業機械名の報告はない。
2002年の1月〜10月までの輸入台数は、9,464台で中国から4,958台(52.4%)、日本から4,478台(47.3%)、韓国から28台(0.3%)であり、ほとんどがパワーティラーである。(出典:財務省関税局通関統計)
 
2002年における日本製のパワーティラー中古車のCIF価格は約Rs. 47,000〜90,000(約\70,000〜135,000)で、中国製の新車のCIF価格はRs. 50,000〜88,000(約\75,000〜132,000)で日本からの中古車とほぼ同じである。日本製の新車のCIF価格は約Rs 196,000(約\294,000)で、240台輸入されており、総てK社の製品である。
 農家の反応は、「中国製は毎年部品交換が必要であるが日本製は15年は十分に使える。日本製新車は3倍の価格であるが、下取り価格も高く、賃耕を行うことで数年で元がとれる。また中古の耐久性も中国製新車に比べて格段に高いので資金があれば日本製の中古を購入する。」といっている。地方の農業機械販売店も同様な意見であり、客筋により日本製新車・日本製中古・中国製新車を売り分けている。
 4輪トラクターの大手国内販売店は表4に示すように8社あり、1999年以降新車が約180台〜430台/年 輸入されている。中古は約110台〜430台輸入されている。


表1 国内製造メーカー
機 種 No メーカー名 所 在
トレーラー・水田車輪メーカー 1 Amara Motors Akressa
2 Asiri Motors Hambantota
3 Farmers (PVT) Ltd Colombo
4 Gunatillake Motors Anuradhapura
5 Nihal de Silva & Co Boralesgamuwa
6 Seneviratne Motors Amapara
7 Shiran Tractor Engineers Divulapitiya
8 Tharanga Motors Kantalai
9 Upali Engineering Works Chilaw
10 Wimala Engineers Divulapitiya
ポンプ 1 Agro Consolidated (PVT) Ltd  
2 Hayleys Engineering Ltd
3 Singer (Sri Lanka) Ltd
4 Solex Engineering Enterprise
噴霧機 1 Baur & Company Ltd  
2 Hayleys Ltd

       

表2 農業機械輸入大手5社
No 会 社 名
1 Brown & Co Ltd
2 Freudenberg & Co. Ceylon Ltd
3 M T Motors
4 Chandima Trade Center
5 Ranatunga Motors

出典:財務省通関統計

     

表3 トラクター輸入台数の推移
輸入台数
1998 8,595
1999 11,754
2000 12,929
2001 7,940
2002* 9,464

2002*:  1月〜10月の台数 出典:財務省通関統計

表4 4輪トラクター国内販売店大手8社
No 会 社 名 国名/メーカー
1 Brown & Co. Ltd 英国 / ファーガソン
トルコ / ファーガソン
インド/ TAFE・Eichor
2 Freudenberg & Co (Cey) Ltd 日本 / クボタ
中国 / Ginma
3 Diesel & Motor Engineering Co. Ltd インド/ Mahendran
4 Mackwoods Ltd インド/ Swaraja
5 Deve (Pvt) Ltd USA / John Deer
6 Lanka Tractors Ltd インド/ Taffe・Farmtrac
7 Farmers ユーゴスラビア / IMT
8 Harvard Holdings 米国 / フォード
日本 / ヰセキ

出典:2003年1月 聞き取り調査

(3)農業機械の普及・利用形態

スリランカのみならずアジアの稲作農家は、増産より生産コストの低減による収入増と多作化による収入の安定を目指しており、政府もこの方向で支援している。スリランカは、兼業農家(海外出稼ぎも含む)の急増や若者の農業離れで農業労働力は激減しており、農業機械の導入が進んでいる。
 離農の一方、経営規模拡大による個人農家の農業機械保有者も多くみられる。農地支援開発局系列によるトラクター ハイヤリング サービス(賃耕・賃貸・運送・収穫・脱穀作業等)や個人所有者によるコントラクター業も盛んである。農地支援局傘下には約13,000の農民組織(組合および営農集団)があり、食糧増産援助(2KR)で供与されたパワーティラーや4輪トラクター等の農業機械が全国の農地支援開発局系列のハイヤリング サービスや種子農場で活用されている。中・北西部、マハベリ計画地域および和平交渉の進展により避難民の再定住が進みつつある北東部では営農面積が大きく、復興のために水田用4輪トラクターが必要とされる。

 4輪トラクターのさらなる活用にあたっては、農地支援局の部品供給体制の確立(特に消耗部品等の予算および受注・供給システム強化、ABCランク分けで調達、地方貸出しセンターからの部品供給要請に対する迅速な対応)、一時的対応のための日欧米トラクターとの互換部品(国際共通規格部品)・コピー部品の有無等の確認も必要である。販売店のレベルはかなり低いが、民間の輸入代理店とタイアップしたトラクター ハイアリング サービス業界(官・民)へのトラクタークリニック実施等の故障車の修理体制改善も徐々に進んでいる。
 4輪トラクターの部品も日本メーカーの純正部品の入手は限定されても、共通で使える欧米メーカーの純正部品・国際標準規格部品やコピー部品(消耗品)の入手は困難ではない。地方の町工場でも旋盤・フライス盤を装備しているところがあり、緊急用に加工ができ、部品が入手できるまでの一時的対応は可能である。公営のトラクターサービスの消耗部品・その他のスペアパーツは、年初の予算化、供給の運営方法改善次第でサービス最盛期のトラブルは乗り越えられる。また、農地支援開発局系のサービスにおいては2KR見返資金(カウンターファンド)の活用による重要部品の手当も検討課題として挙げられる。
 4輪トラクターのスペアパーツでコピー部品や国際規格で互換性があり、入手可能な代表的な部品は、タイヤ・ベアリング・ベルト・バッテリー・ラジエーター・作業機・オイルシール・シリンダーヘッド・ガスケット・ピストンリング・ライナーシリンダー・インレットバルブ・電球等がある。
 パワーティラーのスペアパーツは、日本メーカーの純正部品、コピー部品が国内のどこでも入手できる。

 写真4 中古車整備販売店アヌダラプラ近郊)

(4)        農業機械化のための農村金融・資金調達
  スリランカの農村では15人以上のメンバーにより営農集団(Farmers Organization)が設立できる。現在、農地支援開発局の指導で約13,000組合が組織されている。またまだ数は少ないが農業会社が4・5社設立されている。農家や営農集団は、農地支援開発局系のサムルディ銀行(Samurdhi Bank)があり、年利10.5 %を3〜4ヶ月で返済する仕組みである。民間ではサヌス銀行等があり、農業機械・農業資材の購入や農村工業への融資が受けられる。
 兼業の収入により農家の経済は良くなりつつあるが、都市近郊では農地の値上りで農地を売渡す農家も増えている。稲作より収入の良い花卉・果実等園芸作物の生産に移る農家も多く、こうした営農資金への融資も多い。
 1998年ではRs 1,537百万の融資がサムルディ銀行からされており、目的別協同組合の融資比率の推移を表5に示す。

表5 目的別地方協同組合の融資比率の推移
目 的 1994 1995 1996 1997 1998
農業 11.40% 13.70% 13.70% 13.70% 11.60%
畜産 2.80% 2.90% 2.00% 2.50% 3.20%
小規模工業 7.80% 8.40% 5.20% 5.60% 8.20%
住居・電気 10.30% 9.50% 10.10% 19.00%
プロジェクト・売買資金 68.80% 54.30% 4.60% 4.80% 24.80%
その他 9.20% 10.40% 65.10% 63.30% 33.20%
出典: 協同組合開発局