「インドにおける農業機械化の実態」
平成13年度 農林水産省 機械化農業生産体系確立海外技術協力促進委託事業で、本会
小川一貴専務理事と元JICA専門家 安部信幸氏が平成14年1月23日から2月6日の間調査に参画しました。インドは、先進工業国の製造技術から村落工業レベルの技術が雑居している国であり、農具、人力・畜力作業器および農業機械、動力作業機は、村の職人、小農機工場および組織化された大規模農業機械工場で製造されています。同事業の報告書のうち、インドにおける「機械化技術協力
技術指針の要約」と「農業機械の生産と輸出入」、「農業機械の普及・利用形態」について掲載いたします。 インド農業では稲作の作付延面積に占める割合は、22.8%で穀類の中では一番高い。今後農業生産の多様化が図られたとしても稲作の地位は変わらない。 稲作の技術水準は1966年から始まった「緑の革命」によるHYV(高収量品種)・化学肥料・農薬・潅漑のセット技術の普及によって着実に増加し、ほぼ自給の域に達し、高級香り米のバスマテイ種を主体に輸出も行われている。しかし稲の収量水準は、1.93t/haで決して高くない。特に天水田地帯の収量が低く、不安定である。農業機械の導入に先立ちHYVの導入、施肥改善、病害虫の適期防除等によって、さらなる収量の向上を必要とする。一方、インドでは稲‐小麦、稲‐豆類等の1年2作体系が多いので、機械の汎用化を念頭に置く。 農業機械化の協力に当たっては稲作を中心にしつつ、稲作との結合作物を考慮して行うこととし、協力地域における稲のHYVの普及状況、施肥量、病害虫の防除等稲作の技術水準および作付体系を事前に調査しておく。 3. 農業機械の開発と製造 インドにおける初期の農業機械開発は、英国の技術開発の影響を大きく受け、インドの動物に適合するモールドボードプラウ、ディスクハローやカルチベーターがインドに導入された。1960年代に入り農業機械と作業機の改良・研究・開発を推進するため、主要な州に17の研究・訓練・試験センターを開設した。 1976年には中央農業工学研究所(CIAE)をマデイヤ・プラデシュ州ボパールに新設し、インドにおける農業機械と作業機にかかわる全研究の調整機関を併せ持つこととした。CIAEではプロトタイプ製作工場が設置され、市場へ試験導入のための商品開発を実施している。 農業機械、作業機および農具は、村の職人、小農機工場および組織化された大規模農業機械工場で製造されている。
トラクターの制動力試験 村の職人(鍛冶屋、大工)や遊牧の民は、シンプルな道具を作るのが上手で、職人技術屋は、鍛冶屋と大工を信頼しており、彼らの作る農具や作業機は、ほとんどカスタムメイドである。小農機工場は全国の都市部、都市近郊や農村に散在するが、選択された地域に集中している。
組織化された農橡工業は、コンピューター支援製造を含む高度な製造技術を有する。これら大規模工場は工業団地に位置し、高度な生産設備と熟練した労働力を備えており、トラクター、電動モーター、潅漉ポンプ、スプレーヤー、ダスター、パワーティラーなど精巧で複雑な製品を生産している。
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表 インドにおける主要農業機械の輸出入・稼働台数 |
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農業用トラクタ |
収穫機・脱穀機 |
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稼働中 |
輸 出 |
輸 入 |
稼働中 |
輸 出 |
輸 入 |
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年度 |
台 数 |
台 数 |
金額〈1,000$) |
台 数 |
金顔〈1,000$) |
台 数 |
金額(1,000$) |
金額(1,000$) |
1999 |
1,520,000 |
3,000 |
18,000 |
70 |
2,100 |
4,200 |
6,500 |
4,500 |
1998 |
1,500,000 |
2,902 |
17,539 |
65 |
2,094 |
4,100 |
6,464 |
4,569 |
1997 |
1,450,000 |
2,790 |
17,329 |
36 |
1,623 |
3,900 |
4,414 |
8,048 |
1996 |
1,400,000 |
3,624 |
22,897 |
32 |
1,699 |
3,700 |
4,911 |
3,705 |
1995 |
1,354,864 |
2,805 |
18,734 |
911 |
2,415 |
3,550 |
5,835 |
2,156 |
1994 |
1,257,630 |
1,800 |
12,117 |
20 |
647 |
3,300 |
7,386 |
903 |
1993 |
1,195,013 |
900 |
5,764 |
14 |
549 |
3,100 |
4,657 |
786 |
1992 |
1,136,160 |
840 |
5,241 |
15 |
637 |
3,100 |
4,374 |
745 |
1991 |
1,063,012 |
322 |
1,884 |
27 |
790 |
3,000 |
1,298 |
2,361 |
1990 |
988,070 |
363 |
2,716 |
5 |
159 |
2,950 |
2,017 |
1,383 |
出典:FAO2001 |
表 インドにおける農用トラクターおよぴパワーティラの生産と販先 |
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年 度 |
トラクター台数 |
パワーティラ台数 |
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生 産 |
販 売 |
生 産 |
販 売 |
|
1994〜1995 |
164,029 |
164,841 |
8,334 |
8,376 |
1995〜1996 |
191,311 |
191,329 |
10,500 |
10,045 |
1996〜1997 |
221,689 |
220,937 |
11,210 |
11,000 |
1997〜1998 |
255,327 |
251,198 |
12,750 |
12,200 |
1998〜1999 |
261,609 |
262,322 |
14,480 |
14,488 |
1999〜2000 |
278,556 |
273,181 |
16,891 |
16,891 |
出典:AnnualReport,MinistryofAgriculture1999−2000 |
表 農用トラクタの生産台数 |
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年 度 |
1993−94 |
1994〜95 |
1995〜96 |
1996〜97 |
1997〜98 |
1998〜99 |
1999〜00 |
トラクタ生産台数 |
138,600 |
157,800 |
201,700 |
244,800 |
279,700 |
271,300 |
279,700 |
出典:EconomicSurvey2000〜2001,MinistryofFinance |
2. 農業機械の普及・利用形態
(1) 農業機械の普及
国の機関で行った農業機械の研究で開発された試作機械は、パイロットプラントでプロトタイプ化され、各地で行うデモンストレーションで、農家の評価を受け、これが生産販売され、普及となる。同時に技術訓練や政府のクレジットサポートも重要である。国内の農業機械・作業機の普及所管は、州政府である。その活動は、農業省農業・協同局にて調整されている。
国の新規開発機は、ICARが全インド研究調整プログラム(AICRPs−All India Coordinated Research
Programme)を通じて、農家圃場でフロントライン デモンストレーション(FLD一現地前線実演会)を実施し、評価・普及を図っている。この実施を支援するため、ICARは、全国261カ所に農場科学センター(FSC−Farm
Science Centre、またはKVK)を設立した。FSCは、技術の立証と農家、村の職人・職工への技能訓練が任務である。現在、500あるデストリクト(District州の下の行政区分、県に相当か)それぞれに1カ所のFSCを設置すべく政府に提案中である。
インド政府は、農業機械の普及促進のため、農家の農業機械・作業横購入資金への支援として、フアイナンシャル・インセンティブ(融資と補助金)を提供している。
伝統的な農具や作業機は主に畜力で使用されている。改良された農具、作業棟および農業機械は、畜力と機械動力共に使用されている。国民の65%は農業従事者で、その31%は女性である。畜力は全国いたるところで利用されている。一方、機械動力は、インド農業に強いインパクトを与え、タイムリーで高いエネルギーの投入は、土地生産性を安定させ、向上させている。
伝統的な畜カプラウでの耕起は、ヘクタール当たり30〜40時間という低出力であり、さらに数度にわたる耕起を繰り返さなければならないため、生産性は低いが、大多数の農民に利用されている。去勢雄牛で引くカルチベーターやディスクハローは、3〜8
%の伸びで普及している。この要因は、一般の畜カプラウと比較して2〜3倍の作業能率を持ち、かつ耕起の品質・仕上がりの良いことにある。この方式は、小規模、準中規模および中親模農家で高い支持率を保っている。この一方、改良された作業機、例えばモールドボードプラウ、パドラー、ディスクハロー、ペグツースハロー、スプリングタインハロー、パテラハロー等は、より効果的な作業が可能なことから急速に受け入れられてきている。トラクター+耕転作業機の賃借よりも経済的理由からかなりの普及が見られる。また、条播のための播種機や移植機も、高価な投入である種子、肥料の効果的管理の助けとなるため、著しい成長を見せている。除草作業に関しては、改良除草機が普及している。この機械を使用することで除草労力をヘクタール当たり275〜590人・時を25〜110人・時まで軽減することが可能である。スプレーヤーやタスタ類も増加している。脱穀機とコンバインは、タイムリーな作業を確実にしてくれるし、過重な作業を軽減している。
(2) 農業機械化の動力
園場作業をタイムリーに行うためには、高いエネルギーの投入が必要となる。人力、畜力、トラクター、パワーティラー、モーター、ディーゼルエンジンなどは、農場原動力の主要な要素である。しかし、人力、畜力からのエネルギーは、農業の近代化に不十分であるだけでなく、能率も低い。だが、小規模農家、丘陵地帯、多毛作、低湿地帯では有効である。潅漑ポンプは広く利用されている。
ポンプ潅漑
トラクター利用の多くは、パンジャブ、ハリヤナ、ウッタル・プラデイシュ、ラジャスタン、マデイヤ・プラデイシュおよびグジャラートに集中している。他州でのトラクターの受け入れはまだ少なく、畜力が原動力とされている。
(3) 農業労働力
インドの農業労働者数は、1951年に9,720万人であったが、1991年には1億8,659万人と年率約 2.1 %で増加している。2001年センサスでは2億3,500万人であった。これら農業労働者は、小耕作者と農業労働者で構成され、うち38.9
%にあたる9,140万人は女性で占めている。農村部(Rural Area)の、農業労働者は2億2,780万人で、うち女性は39%の8,900万人である0通常、女性は、播種、穴堀り、インターかレチャー(作物条間への作付け)、除草、収穫、摘果、一次農産物処理作業等に従事する。丘陵地・傾斜地作業や耕起作業も行っている。農業省が実施した主要作物の生産コスト調査によると、雇用労働力は1972年の年間117日であったものが、1987年には年間110日まで減少している。
人力除草器
しかし、ヘクタール当たりでは、逆に723時間が755時間へと増加している。要因は、分析に農産物処理加工セクター分野が含まれていなかったことであろう。
(4) 畜 力 (DAP: Draught Animal Power)
畜力は、伝統的にインド農業の主要原動力として使用されてきた。3歳以上の雄牛や雄バッファロー(雄水牛)は、圃場作業に使用される。雌牛の2%弱や雌バッファローはインド東部の州で使用されている。ラクダは、ラジャスタン、ハリヤナおよびグジャラートでその使用が見られるが、移動に問題をもっている。ラクダは3,000万頭以下と推定されている。牛の頭数は、1961年2億2,680万頭から1987年には2億7,260万頭へと増加しているが、役牛の頭数は、8,040万頭から7,300万頭へと減少している。なお、1996年の牛の頭数は、推定3,238万頭である。
水田の畜力除草
牛の分布は変化が多い。インド全体での牛頭数の加重分布は、4 ha/ペア(2頭1組)であるが、多いところでは、2.45 ha/ペアであり、少か−ところでは、18
ha/ペアである0平均2.5ha/ペアとなり、作付耕地の55 %は、畜力で耕作さていることになる。 分析によると牛の頭数の減少は、機械力の導入に起因している01972年と1987年を比較すると、1.55ペア/haから1.23ペア/haにまで減少している。
年間の畜力使用時間で比較すると、1982年には666時間であったが、1987年には590時間であった。畜力と機械力の関係では、畜力利用減少地域は、トラクター導入数が100〜110ha/台の地域であり、北部を除く他地域では畜力利用は増加傾向にある。
(5) 機 械 力
1960年代に始まったHYV(高収量品種)の導入は、農業へ高いエネルギー投入を必要とさせた。このため、畜力の不足は、トラクター、パワーティラー、ディーゼルエンジンおよび電動モーターで補完された。1960年代には、毎年8,000台強のトラクターが徐々に導入され、1970年には2万台以上、1980年代には毎年75,000台が導入された。この後、トラクターの販売台数は伸び続け、1997〜98年度には25万台を突破した。トラクターの密度では、パンジャプ、ハリヤナ、ウッタル・プラデイシュ各州が他をリードし、それぞれ、12.5
ha/台、18ha/台、54 ha/台である。1995−96年度の全国平均のトラクター密度は、78
ha/台である。
農家のトラクター採用は、自家使用が主目的であるが、賃貸目的も同時に持っている。現在のトラクター台数は170万台と推定され、年間使用量は、650〜800時間と幅が見られる。作業時間のうち、園場作業は34 %で、残りの時間は、農産物、資材、人の運搬・移動および定置作業というCIAEのデータがある。インドには、トラクターを製造・販売する会社が7社あり、年間25万台以上を生産している。一方、パワーティラーは、大半の農家に受け入れられず、2〜3の州で水田の代掻きや果樹園の耕起に使用されているのみである。年間約1万台の導入で、累計でも11万台にすぎない。
機械力の主要導入先は、潅漑分野であり、潅漑用ポンプは、毎年70万台ずつ導入され、累計では
1,550万台導入された。うち、60 %は電動モーター駆動で、残りはディーゼルエンジン駆動とトラクター駆動である。多くの農家が潅漑施設をもてるよう、政府は施策として補助金・融資を支出している。これは、チューブ井戸のボーリング費用、潅漑ポンプシステムの購入に利用できる。正味潅漑面積は、1971年と1994年の比較では、3,010万haから5,460万haと増加し、潅漑可能面積は、3,810万haが7,630万haにまで拡大した。
農村電化の進展とディーゼル燃料の高聴から、農家の多くは、潅漑に電動モーターを使用する。視察先のパンジャブ州では、農業生産に使用される電気料金は無料であった。このモーターは、他の農作業、脱穀、農産物処理などに利用される。しかし、電力事情が悪く、供給が不規則な地域では、モーターの代替としてディーゼルエンジンも使用される。
(6) 農業機械の開発
インドにおける初期の農業機械開発は、英国の技術開発の影響を大きく受けている。この当時、英国から取り寄せた馬牽引用作業機は、インドで伝統的に使用していた雄牛や雄水牛に適合しなかった。しかし、その後、適合のための改良が重ねられ、その結果、インドの牽引動物に適合するモールドボードプラウ、ディスクハローやカルチベータがインドに導入された。1954年、ICAR(インド農業研究協議会、農業省)は、農家で使用している既存の農具と作業機を全国にわたって調査した。これは最初のことであった。1960年代、ICARは農業機械と作業機の改良・研究・開発を推進するため、17のRTTCs(研究・訓練・試験センター)を主要な州に開設した。これらセンターは州の農業局によって運営された。1960年代後半(第4次5カ年計画期)、地域研究・訓練センターが2カ所に、また、4カ所に研究センターが新設された。1971年度には、ICARがスポンサーとなり、AICRPs(全インド調整研究プロジェクト)が、農業機械と作業機に関わる研究開発状況と試作機の調査をし、同時にプロトタイプ機を、異なる農業気象条件下で評価試験を実施した。さらには、研究・開発促進のため、新たに、パワーティラー(1980年)、農業への畜カエネルギー利用(1987年)、人間工学・農業安全(1994年)、女性の過重農作業からの解放(1994年)など次々とプロジェクトを立ち上げた。1976年、ICARは、CIAE(中央農業工学研究所)をマデイヤ・プラデイシュ州ボパールに新設し、インドにおける農業機械と作業機にかかわる全研究の調整機関を併せ持つこととした。CIAEには、既にプロトタイプ製作工場が設置され、市場へ試験導入のための商品化開発を実施しており、この拡大園場評価試験も行われている。この10年間で約4万アイテム以上の農作業棟プロトタイプが一般製造者、農家に無料で供給された。加えて、農業機械のデザイン、試験、製造技術についてのトレーニングも製造業者や研究技術者に行われている。
(7) 農業機械の導入
政府は、小規模農家の機械化を支援するため、畜力作業機購入資金としてコストの50 %を限度とした補助金を提供している。加えて、州農工業開発公社では、農業機械製造者、市場、賃耕・賃刈り、サービス施設へのロジスティツタ支援を行っている。改良された人力・畜力農機具(種子・肥料ドリル、人力田植機など)の普及は遅々として進展していない。
農家に受容され、普及が進んでいるのは、動力作業機である。トタクタ牽引作業機であるカルチベーター、ディスクハロー、ディスクプラウなどは、18,000を超える小規模工場で製造・販売されている。農家はディスクハローよりもカルチベーターを好んでいる。これはコスト面で有利なためである。レベラー、グレーダー、播種機は、限られた範囲で購入されている。主要な普及・導入機は、潅漑機器と小麦の脱穀機に使用されるトラクターである。動力脱穀機は年間25万台以上導入される見通しである。これらは、機構部品を交換することで稲の脱穀にも使用可能なものが多い。自足式およびトラクター駆動コンバイン、リーバーハーベスター、ポテト・ピーナツ機械なども商業ベースで販売され、トラクター密度の高い地域の農家に受け入れられている。
(8) 農具と人力作業機
インドでは、種々のものが使用されている。例えば、スペード、ショベル、クロウバー、斧、播種器、鎌(平、鋸)、鍬、足踏み脱穀機、主導メイズシェラー(トウモロコシ脱粒器)、ハンドクリーナー(手動唐箕)、グレーダー、チャフカッターなど頻繁に使用されている。農家にはこれらが必ず2〜3セットある。チャフカッターは、北部や中央部で必需品となってきている。
(9) 耕耘作業機
伝統的な畜カカントリープラウは、一般に普及しているが、その能力は30〜40時間/haと低く、ランドプレバレーション(圃場準備作業:耕起、砕土)には3〜4回の耕起を必要としている。これにとって代わるカルチベーターやディスクハローは、2〜3倍の面積を処理でき、その仕上がりも良い。
畜力では、モールドボードプラウ、パドラー、ディスクパドラー、ペグツースハロー、スプリングツースハローなど一般的に使用されているか、トラクター牽引型はさらに高能率作業ができ。1991/92年時の稼動台数は、鉄製プラウが1,179万台以上、カルチベーターが579万台、ディスクハローが387万台、畜カバドラが467万台である。これらは、年率3〜8%で増加中である。近年、トラクターによる耕寂や代掻きが一般化し、随所で見ることができる。新規耕地拡大に欠かせない雄牛牽引のスクープ、バックスレーパー、U型レベラーなどは既に開発され、一般市場で購入可能である。
(10) 播種・移植作業機
ラインソーイング(条播)は、種子の節約だけのためでなく、肥料を作物の根元近くに適用するために有効であり、また、機械式ウィーダー(除草機)の使用を可能にするので雑草管理を容易にしている。地方に多かった竹パイプと漏斗で作った播種機は、現在、スチールとプラスチック製にとってかわった。畜力用Dufan、Tifan、EnatigoruやFESPOは、能率が高く、コストセーブに貢献している。しかし、播種量を正しくするための運転技術を要する。
乗用田植機
より精密な播種量と肥料散布量を得るため、畜力とトラクター作業機として機械式メーターの付いたグレンドリル、肥料散布装置付きグレンドリルが、地域や作物(小麦、稲、豆類、油脂種子、メイズ、ポテト、ピーナッツ)に適合するよう開発・製造され、市販されている。
汎用ツールフレームの普及は急成長し、耕転作業機やインターかレチャーツールに播種、移植アッタチメントを搭載できる。水稲の移植では、手動、パワーティラー型やエンジン駆動型の田植機について、各所で評価試験が実施されている段階である。シュガーケーン移植は、骨の折れる、時間のかかる作業である。トラクター駆動セミオートマチック・シュガーケーンプランタが商業生産されている。
(11) インターカルチャー(作物畦間への作付-混作)と作物保護
潅漑、天水農業において、雨季に雑草コントロールが不十分であると、収量に20〜30%以上の影響をもたらす。単純には汎用ハンドホーで雑草取りができるが、300〜700人時/haもの労力を費やす。ICARネットワークで開発した長柄ウィーダー(ホイールホー・ペグタイプ)は、除草時間を25〜110時間にまで短縮した。
作物は、雑草から保護されるばかりでなく、病虫害からも保護される必要がある。市場には、各種デザインで低価格の手動スプレーヤー、手動ダスタがある。注目は、低量散布(50〜200リッター/ha)スプレーヤーやウルトラローボリューム(超低量散海: 5リッター以下/ha)スプレーヤーである。しかし、トラクターなど動力利用のスプレーヤーの普及は遅々としている。
(12) 収穫・脱穀機械
シックルやスペード(鎌類)は、農家の主要な収穫、採掘農具である。これらは、村で、容易に低コストで入手できる。しかし、能率はごく低く、かつ、使用には熟練を要する。良質鋼で作られたセルフ研磨鎌が開発され、頻繁な研磨を省いている。エンジン駆動、パワーティラー駆動およびトラクター駆動のリーパが開発され、小麦、稲、大豆、からし等の収穫に広く利用されている。
過去、小麦や大麦の脱穀は、雄牛で踏み付けることで行われていたが、過荷重で多くの時間を要したばかりでなく、多くの穀粒損失と品質低下をモーターらしていた。1960年代に急増した小麦作は、新しい収穫・脱穀機械を求めた。現在では、5〜25 PS用の機械式脱穀機が商業ベースで製作・販売されている。さらに、近年では、稲を含む各種作物に利用できる汎用脱穀橡が開発され、普及が始まった。
稲は脱粒性が良く、打ち付けるだけで容易に脱穀できる作物であるが、この方法では、穀粒損失が極めて多い。東部インドに普及している足踏み脱穀機利用は、重労働作業である。小麦用のラスプバー型のシリンダを備えた稲用脱穀機は、わらを痛めないため、わらを利用する農家には好評のようであり、アーンドラ・プラデイシュ、タミル・ナドゥ、カルナタカ、ケララ州などで普及しだしている。
脱穀機は毎年25万台以上導入されており、累計では176万台稼動中(1997/98年)と推定される。多くの農家は、脱穀機を自家用で使用するが、他方、賃貸しも行っている。作物の脱穀は、70〜80
%機械脱穀と見通している。
(13) コンバインハ-ベスタ-
農繁期における農業労働者不足と予測不可能な天候から、特にパンジャブ、ハリヤナ、西ウッタル・プデイシュ、ラジャスタン、マハラーシュトラ、グジャラートおよびマデイヤ・プラデイシュの各州でコンバインやスレッシャ収穫の要望が多い。トラクター駆動と自足式コンバインは既に商業生産され、毎年約700〜800台が販売されている。また、自足式コンバインでは、水田用にフルクローラ型(インドではチェーン型と言う)も少数だが製造販売されている。近年、季節的な農業労働者不足と次作のために収穫を急ぐ農家から、機械収穫を行うことが増加している。この収穫・脱穀は、ハイヤリングサービス(賃貸し)の最も適する分野となっている。
(14) パンジャブ州とマディヤ ブラディシュ州の農業(視察先)
パンジャブ州は、農業機械化の先進地であり、耕作地の97 %が機械耕起されている。冬季の休閑時期であったが、移動の事からも、いたるところで2輪トレーラーを牽いた年代物や新しいトラクターを次々と見かけた。主要農作物は小麦とコメである。州政府農業局のサポートも技術的な支援から補助金の交付まできめ細かに行われており、また、州立パンジャプ農業大学が地域農民に密着した貢献をしており、重要なパワーソースである農業用電力が無料であることも農業近代化に有利に働いている。
マデイヤ・プラデイシュ州は、インド第一の広大な面積(全国の17.55 %)を誇っている州である。機械化率はパンジャブ州など先進地よりかなり低い。この影響で農家は、収穫適期を逃がし、損失をまねくことが多い。農家はこれを避けるため、改良農機具を積極的に採用しているし、また、トラクター、脱穀機やコンバインを賃借り〈ハイヤリングサービス)するケースが普通となっている。我々が移動した先々では、路上でトラクターとトレーラーの組み合わせも多く見かけたし、ところどころの農家の軒下にトラクターを見ることができ、また、大型コンバインが置かれているのが見受けられた。
農業用トラクターの用途を分析すると、CIAEによるサンプル調査では、園場使用が34 %で、古手かは生産物、資材、人の運搬輸送やポンプ、脱穀機などの動力源など定置で使用されている。州の農業局の農業近代化にかける意気込みは強く、ワークショップでは簡易機械の開発、低価販売も実施しているばかりでなく、ブルドーザー、深耕プラウ、トタクタからコンバインまでのハイヤリングサービスをも実施し、農民にとってかけがえのない存在となっている。この州の中心のボパールには、国立の中央農業工学研究所(CIAE)があり、特に地域の農民や農機具小工業に密着した技術の開発や指導を実施している。
マデイヤ・プラデイシュ州には先述のCIAEをはじめとし、2つの農業大学、19の農場科学センター(KVK)、11のフアーマーズ トレーニング センター、10のその他訓練センターが配置されて、機械化の普及に寄与している。
パンジャブ州とマデイヤ・プラデイシュ州を比較すると、パンジャブ州は経営規模が広い。平均営農面積は、パンジャブ州3.61 haに対し227 haであり、全国平均では1.69 haである。同様に1.O ha以下の農家は、パンジャブ州26.5 %に対し40.0
%であり、全国平均では57.8 %である。中規模農家の割合は23.36 %に対し13.37%であり、全国平均では7.1%である。
主要作物の小麦とコメで両州を比較すると、パンジャプ州では420万ha中、小麦が43.7 %、コメが28.6%、マデイヤ・プラデイシュ州では1,990万ha中、小麦が23 %、コメが26 %を占める。反収では、パンジャブ州の小麦、コメがそれぞれ4,235kg/ha、3,397kg/haに対しマデイヤ・プラデイシュ州では、それぞれ1,625kg/ha、831kg/haであり、全国平均では2,611kg/ha、1,937kg/haであった。潅漑の良否が影響していると考える。
潅漑ポンプの導入数を見ると、マデイヤ・プラデイシュ州では14.4 haに1台であり、通常5〜6 haごとに1台は必要とされるので非常に少ないと言える。パンジャブ州では5.3 ha/台であり、不足はない。トラクターの普及台数でパンジャブ州は12.5
haに1台であり、マデイヤ・プラデイシュ州では88.6 haに1台である。
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