6.農業機械市場・流通・サービス体制

東南アジアにおける農業機械の市場は、パワーティラーを中心とした市場で、農家の経済に適応したカスタムメイドの市場であるが、普及が進んで購入した農業機械の下取り価格や耐久性が問われるようになってきた。日本製のパワーティラーは、中古といえども再整備・再塗装されて店頭に並べられており、中国製の耐久性の悪さを考えると農家も日本製の中古の価格が中国製等の価格より約30 %位高くても購入するようになってきた。

スリランカの日本製中古販売店
カンボデイアの中古農業機械店(バラ売り)
4輪トラクターは、これまで欧米の重い畑作用大型トラクターがもてはやされてきたが、アジアの稲作国では畑作と違って水田圃場は狭く、小回りが効かず、耕盤破壊等の諸問題も起してきたため、安価な水田用トラクターが求められている。東南アジアでは、トラクターはコントラクター市場であり、コントラクターは作業時間を短縮するため大型で強力なエンジンを搭載した機械を必要とする。一方、営農集団の育成も進んできており、営農集団が4輪トラクターを購入するケースも出てきた。タイ・インドネシア(ジャワ島)は、水田用トラクターに移行する可能性がある。
  東南アジア諸国の流通は、華僑の世界でもある。中古やスクラップを日本から輸入して、再整備・塗装して近隣諸国へ輸出する製造業者もある。
  旧計画経済の国の流通は、依然公社または政府が握っている。ミャンマー・ヴィエトナムは、農業機械の全国販売ネットを持っている。民間(華僑)は中古市場のネットを持っており、バンコクやホーチミンで再整備・塗装された日本製中古農業機械やエンジンを供給販売している。
  パワーティラーの販売は、農家の資金に応じて、エンジンやシャーシー・足回り・トレーラー・プラウ等の作業機のバラ売りがある。
  正規のトラクター修理工場を全国に持つのはミャンマーに限られている(農業機械化局の運営)が、設備は極めて古い。タイ・インドネシア・フィリピン・インド・スリランカでは、大製造業者・販売店等民間の修理工場があり、村落工場(鍛冶屋・自動車修理屋)や中小規模の機械工場へのアクセスが可能である。
トラクターステーション(ATS)の
ミデアムワークショップの工作機械 
全国に数ヶ所、各ATSには小規模ワークショップがある
              (ミャンマー)
国立農業研究センター(NARC:ラオス)
のワークショップ
(僅かな工具で開発が行われている)
  サービス部品は、純正部品、コピー部品(台湾・シンガポール製・中国製・国産町工場製)、中古部品があり、パワーティラーに関しては東南アジアではどこでも入手できる。品質も純正部品から順次落ち、価格も安くなる。トラクターのエンジン部品やラジエーター、バッテリー、タイヤ等は、バス・トラックとの共通部品や国際標準規格で共通の欧米トラクターの純正部品やコピー部品等が現地で手に入るが、特殊部品は純正部品に限定される。緊急の場合は町工場でそれらしき部品を製造して間に合わせることもある。製造者責任の考え方はなく、購入者が部品調達をして修理工場へ本体と一緒に運んで修理を行うシステムが普通である(自動車も同じ)。
  タイやインドネシアの大手農業機械会社は、販売店や修理工場のネットがある。またオペレーターやメカニックの研修制度も持っており、工業国に近いサービスに取組んでいる。
  農業機械は、設計図面を必要としないカスタムメードの市場から脱皮しつつあり、日系メーカーとの合弁や技術提携事業で、技術・品質とも向上している。コストダウンにも成功して、価格で中国製品に太刀打ちできるようになり、タイやインドネシアは農業機械の輸出国ともなってきた。