〜本会農業機械化情報研究会から〜
本会は2月18日、平成14年度第4回の農業機械化情報研究会を開催した。ここでは当日の講演の中から、「近年の気象と農作物の生育に及ぼす影響について」をテーマに語った農林水産省大臣官房企画評価技術調整室長・喜多山茂氏の講演趣旨を紹介する。 |
温暖化と米の乳白問題 |
農林水産省大臣官房企画評価技術調整室長 喜多山 茂 氏 |
水稲は北海道で収量増すに 出穂後27度を超えると出やすい 早くなった田植え時期が問題 |
1980年代に入って、地球温暖化が国際的に問題となり、88年に気象変動に関する政府間パネルIPCCが作られました。気象変動枠組み条約自体は94年に発効し、95年から締約国会議(COP)が開催され、昨年までに8回開催され、日本でも京都でCOP3が開催され、京都議定書が採択されました。また、農林水産省では、昨年4月にIPCCの三次評価等を踏まえて、地球温暖化が進むと日本の農業生産にどのような影響があるかという予測をまとめました。 一方、この2〜3年、乳白米が西日本を中心に頻発し、1等米比率が落ちています。この問題については2月4日に各県の行政、試験研究、専門技術員等に集まっていただいて検討会を行いましたが、青森と北海道を除く全府県から150人ほどが参加し、各地域で重要な問題として、関心が高まっていることが伺われました。 |
今回は100年という長期的な予測と最近の気象と乳白米の関係についてお話をさせていただきます。 最初に、長期的な予測についてですが、IPCCの評価報告書等をベースとして農業への影響がどうかということを検証したものです。この報告書では20世紀を通して全体では0.6℃ほど温度が上がっているという観測結果と二酸化炭素濃度の予測等をベースに1990年から2100年の間に平均気温が1.4℃〜5.8℃ほど上がるとされています。 昨年とりまとめた予測では、気象条件としては2030年代には、過去10年間と比べて平均気温で2℃程度、2060年代では3℃上昇する、降水量は3割程度増加するという予測を前提にしています。 水稲では、温暖化が進行すれば、最適出穂期も変化することになります。関東を境に、高冷地と北日本は出穂最適日は前に、一方関東の平野部から西の方はどちらかというと後ろにずれると考えられます。 一般に、二酸化炭素濃度や温度が上昇すると乾物重は増加しますが、これも生育後半ではl効果は小さくなっていきます。また、30℃〜35℃を超えると分げつ数の減少等の影響がみられることがわかっています。これを潜在収量という形で考えたときにどうなるのかを、栽培期間は北日本は前に、西日本は後ろにずれるという前提でシュミレートしました。その結果を見ると、北海道ではかなり上がりますが、他の地域ではおおむね下がる傾向になり、日本全体でみると潜在収量は全体として下がる可能性があるということです。また乳白など品質面での影響も考えられます。 果樹については単純にいえばミカンなど常緑果樹は、果樹農業振興計画で基準としている栽培温度帯の年平均15℃〜18℃という範囲が北に広がる一方、今の主産地では年平均が18℃を超えてしまう可能性があり、今後、品種や栽培方法を検証していくことが必要になります。また、リンゴなどの落葉果樹も、栽培温度帯が6℃〜14℃ですが、北限はあがり、主産地では14度を超えるようなところも出てきます。この場合には、酸度の低下や着色不良といった影響が出る可能性があります。 野菜では、作期の移動や温度管理が比較的簡単にできることもあって、プラス・マイナスありますが、作期を移動させるということで対応できるのではないかと考えられます。ただし、施設では高温対策に対する設備投資が必要になる一方、北日本では暖房用の燃料が節約されるという影響も考えられます。 このほか、雑草では発育が早まり除草剤の散布適期が短くなる、いもち病の多発地帯が北に移動する、ニカメイガが年に3世代発生し、潜在的な被害量が増加する、畑土壌では有機物の分解が促進されたり、降水量が3割程度増加することにより傾斜地での水食の危険性が増大する等の影響も考えられます。 数十年という期間を考えた場合にはこのような影響が考えられますが、これについては、引き続き試験研究機関での研究を進めていくことが必要です。 |
次にここ数年、全体として1等米比率が落ちているという話です。北海道は1等米比率が上がり、東北も多少変動はありますが全体としては少し上向きです。しかし、関東、北陸、東海、近畿、中国四国では明らかに1等米比率が低下しています。また、コシヒカリは比較的乳白が出にくいなど品種によって違いがあり、北日本でも県内の特定地域、品種でみると問題があるため、生産現場での関心が予想以上に高いことが伺われました。 この理由を調べると、関東以西では乳白が増えています。検討会ではまず、どうして乳白が増えているのかと言うことを検証しました。実際の要因として考えられるのは、気温、特に出穂から20日間の平均気温が27℃を超えると乳白が発生しやすいということでほぼ意見の一致をみましたが、最低気温、最高気温で違いがあるかどうかについては意見が分かれました。また、栃木県からは日照不足の影響も報告され、さらに、当日、検討会にご出席いただいた東京農業大学の石原先生からは、気温以外に湿度などを加味して解析する必要があるとのご指摘もありました。発生の要因については、今後、試験研究で検討していく部分も多いと考えられます。 |
しかしながら、乳白米の発生が増えてきているのは、ここ2〜3年の状況から見ると現実的な問題です。このため、過去の気象データを整理してみました。8月の平均気温でみると、地域によって変動はありますが、30年前と比べて、全体としては1℃程度高いようです。これを出穂最盛期から20日間の平均気温でみると、おおむね2℃程度高くなっています、したがって、気温が上がっているだけでなく、出穂が早くなって7月下旬から8月上旬の厚い時期に出穂していることから出穂期の気温が高くなっているのではないかと推論できます。 出穂最盛期後20日間の平均気温が27℃を超えた年が10年間で何回かあったかをみると昭和48年からの10年間ではほとんどみられませんが、昭和58年からの10年間では近畿を中心に7〜9回、さらに平成5年から14年をみると、北陸や中国四国でも同じようなじょうたいにありますし、他の地域でも頻度が高まっています。 一方、出穂期の状況をみると、たとえば、滋賀県では出穂最盛期は昭和48年からの10年間ではほぼ8月の上旬の終わりから中旬ですが、ここ数年は7月の下旬になっています。 この要因としては、ひとつは田植えの早期化が考えられます。実際に田植機最盛期は一部の県を除いて5月5日頃で、30年前と比べると10〜15日ぐらい早くなっています。また、田植えの始期から終期までの日数も短縮し、短期間に集中して出やすい状況にあります。 もう一つの要因は品種です。富山県の例ではコシヒカリがどんどん増えていますが、コシヒカリは比較的早生の品種ですので、全体として早い方にシフトしていきます。他の県でも同じような傾向にあります。 生産現場での実際の動きをみると、島根県では一昨年頃から遅植指導が行われています。現状の生産構造を考えるとゴールデンウイークに田植えをするのをやめるのは難しい面もありますが、島根県の専門技術員の方に聞いても結局、綿密な指導しかないということでしたが、市町村や農協によってはその時期に種子を出さない、苗を供給しないということまで考えているところもあるようです。今後田植え時期を後ろにずらしていくという指導をどのように勧めるのかが当面の課題となります。いずれにしても、現状では、多くの府県で詳細な検証が行われていない状況にあり、今後、各県ごとに乳白米の発生と気象条件の関係をくわしく検証した上で高温による生涯を念頭においた田植適期の検討等議論を深めていくことが必要と考えられます。 |