売れる米作りで機械化フォーラム
日本型水稲精密農業(PF)による高品質米生産の取組み
 生研センター生産システム研究部主任研究員・西村洋氏
日本型精密農業について
 環境負荷低減と高品質農産物の生産を両立させるための農法として、GIS(Geometric Information System)とGPS (Global Positioning System)等に代表される最新のIT技術を中核に据えた技術開発、いわゆる精密農業(Precision Farming)が進められてきました。精密農業の概念は米国の広大な農地に対する新しい生産管理方法で、全ての場所に一定の資材投入を行うのではなく、局所的な情報をベースとして、それぞれの場所で異なる生産管理、資材投入を行うものです。例えば、土壌浸食によって表土が消失した土地では、いくら肥料を投入しても、投入に見合う収益を得ることができない。そのような場所については、土壌、生育量、収量などの局所的な情報をもとに、はじめから農地として利用しないことによって、資材投入量の低減、さらには経営的な効率を向上させることが可能となります。
 生研センターは、21世紀型農業機械等緊急開発・実用化事業でこの課題に取り組んできました。日本型精密農業の定義は「圃場ごとの作物の生育状態などを的確かつ詳細に把握し、施肥等を過不足なく効率的に行うことにより、環境負荷の低減、収量の増加・品質の向上、生産コストの削減を同時に可能にする栽培管理技術」というもので、圃場の状態を把握するためのセンサーとして、土壌情報測定装置、作物生育情報測定装置、穀物収穫情報測定装置が開発され、施肥などの効率的な作業のために、可変施肥装置が開発されました。また、位置情報と各種センシング情報及び施肥等の作業を連動させる、統合的なステーションとして作業ナビゲーターが開発されました。
 平成10年から5カ年の研究期間で、これらの機器はほぼ実用的な性能を持つに至りましたが、それがもたらす効果については、開発した精密農業機器を農業生産の中で統合的に利用し、最終的な目的である、環境負荷の低減と高品質農産物生産を両立させる“栽培技術”としての確立を検証するため、日本型水稲精密農業(PF)実証試験を次世代型農業機械等緊急開発・実用化事業の研究として平成15年度から開始したところです。
 開発当初のPFは圃場内の地力ムラに着目し、土壌、作物生育量や収量の局所的な情報の収集とそれに基づく局所的な施肥管理によって、肥料投入量の削減や圃場内での収量や品質の均質化、ひいては圃場レベルでの収量・品質の向上を目標としていました。しかし、このような局所的な管理だけでは、戦略的な生産管理には結びつきにくく、想定する管理レベルを圃場内から地域に広げ、圃場単位で様々な情報を取得し管理することにしました。
緊プロ事業で開発したPF用機器
 次に、開発した精密農業機器を紹介します。
 作物生育情報測定装置は、作物からの反射光と太陽光を測定するセンサ部、測定操作や表示、データ処理を行う制御操作部などで構成される携帯式の作物生育情報測定装置です。センサ部は、鉛直方向上向きと下向きの分光センサで構成されており、上向きのセンサは稲体に入射する太陽光の強度を、下向きのセンサは稲から反射される光の強度を測定します。3波長の下向きセンサ値/上向きセンサ値(光の反射率)を用いて演算を行い、測定値は、NDVI(正規化植生指数)に相当する値であり、これをGI値と呼んでいます。
 無人ヘリ搭載式作物生育情報測定装置は、産業用無人ヘリコプターにデジタルカメラを搭載し、50m程度上空から撮影して水田の画像を取得するもので、ヘリには画像を取得するためのカメラ装置、カメラの懸架装置、外光を補正するための太陽光センサ、信号受信機、データ及び映像送信機が搭載され、地上側では各種指令信号の送信機、データ及び映像受信機、映像モニタがあり、それを画像解析ソフトで解析し、携帯式のGI値と同等の値を出力するようになっています。
 穀物収穫情報測定装置(収量コンバイン)は、コンバインで収穫した穀物の水分、質量等を収穫作業と同時工程で測定記録できるコンバイン搭載型の装置で、水分測定部、収穫量測定部、制御・表示部から構成されています。収穫作業中は、収穫物の含水率、質量等がリアルタイムで表示でき、作業終了後、圃場全体の収穫量と、この値と入力された面積から求めた単位当たり収量、平均含水率とその変動を表示・記録するものです。
 可変施肥装置は、施肥量とかさ密度を入力するだけの簡易な操作により精度の高い施肥ができ、作業中のボタン操作によって任意に施肥量を変更できます。田植機側条施肥機や水田ビークル用粒状物散布機など電気的に繰出量を調整する機構を有する各種施肥用機械に装着可能な施肥制御装置です。
 情報センターは、PF機器からの情報を蓄積する、地理情報システムの機能を活用したデータベースと位置づけています。構築しようとしているシステムは、自動的に適切な生産管理を指示することを目指してはおらず、最終的な意志決定は、あくまで農業者や営農指導者など、農業のプロに任せ、その意志決定精度を高めるための支援を行うことが目的です。しかし、情報を取り扱う上では、情報センターだけでは不十分で、PF機器で取得した情報を情報センターに取り込む仕組み、機械・装置では取り扱いにくい作業情報や気象情報などの取得方法、さらには、データベースの管理、情報の提供方法など、「情報を取得して役立てる」ためには、実に様々な仕組みを作り上げる必要があります。これらの機能は、現在開発途中です。
実証試験とこれからの情報システム
 現在、新潟と宮城で実証試験を進めています。その試験を通じて、現在各機器の性能確認を行うとともに、実用化に向けた改善を行っています。PF機器に関しては、機能を限定して単体需要を前提とした実用化がまず最初に進んでいくというのが現状です。実証試験については、地力区分に基づく生産管理精度向上が一番大きな目的となります。鋭意、現在データの解析を進めています。さらに数値情報に基づく各種の予測技術についても、データを集めながら現在、その手法の開発に取り組んでいるところです。
 また、情報センターについても、システムの開発を進めているところで、まだまだ私どもが提案しているシステムそのものも、固まったものではなく、また、固めるものでもないと考えています。それぞれの地域、規模に合わせて柔軟に対応できるようなシステムであることが良いだろうと考えています。

←前 このページTOP