コンピュータ化で大規模酪農
吉野牧場

農事組合法人 赤城高原 吉野牧場(利根郡昭和村)では、代表の吉野藤彦氏に話を聞いた。
 同牧場は、成牛500頭、子牛・育成牛300頭の計800頭を飼養する、本州では最大規模の酪農経営。フリーストール牛舎・ミルキングパーラー方式による1日3回の機械搾乳を実施。個体管理はコンピュータにより乳量、発情、病気などの高精度なチェックを行っている。

飼料は輸入飼料が中心だが、自給飼料としてコーン15ha×3圃場、牧草15ha、ライ麦6haを栽培している。機械装備は、360馬力の自走式ハーベスタ(ジャガー840)1台、自走式自動給餌機(14立方b)1台を始め、トラクタ4台、作業機10台、タイヤショベル2台、フォークリフト4台、ダンプトラック4台などを所有している。現在の労働力は22人。氏は昭和村議会の議長も務め、国際交流の仕事をしている関係から、海外からの研修生4人を受け入れている。
 吉野牧場は、昭和21年に当地に入植、25年、ニュージーランドから導入した乳牛1頭からスタートした。41年に農事組合法人設立、61年にフリーストール牛舎・ミルキングパーラーを建設、平成8年に、国の畜産基盤整備事業でフリーストール牛舎を増設し、飼養400頭に一気に規模拡大した。これを契機に、本格的な機械化体系の整備に着手することになる。
吉野氏
ミルキングパーラーでの搾乳作業 迫力の大型自走ハーベスタ
 吉野氏は、大規模化を図るに当たって「雇用を中心とした経営」を第一に考え、「スコップやフォークを持っての重労働は、社長だって嫌なもので、従業員はもっと嫌だということで、いかに手作業をなくすか、自動化を図るかを設計の基本に置いた」と大規模化の視点を示した。「酪農家に雇用されて勤めるというのは大変だというのが一般的な考え方だが、現在はほとんどが機械化され、若い人も喜んで働いてもらっている」と3Kからの脱却に規模拡大のポイントがあることを強調した。
 酪農は365日休みがないというのが経営のひとつのネックになっているが、吉野氏は、「それは逆に365日、仕事があって収入があるということ。確かに酪農の利益率は低いが、それをカバーできる、現在の乳価に耐えうる効率的な経営をいかに確立できるかということ。それができれば、一般の企業に劣らない利益があげられる立派な産業と成り得る」と、酪農経営に対する信念を述べた。
同牧場の牛はすべて、首に付けたICタグでコンピュータ管理されている。これで乳量を毎回チェックするが、さらにコンピュータは、その個体が何リットル出せるのかを予測できる。発情や病気などで乳量が落ちると異常牛としてピックアップされ、異常がいち早く発見できる。吉野氏は「30頭しか飼っていない牧場よりも早く病気を発見できる。酪農は今まで、小数精鋭と言われてきたが、コンピュータを導入することによって台頭数精鋭の経営が実現できる」と、その威力を強調した。
計800頭を飼養する牛舎。牛は首にコンピュータ認識用のタグと牛肉トレーサビリティ用耳標を付けている。
 また、経営において、繁殖が重要になるが、現在発情の見極めは乳量やカウカレンダーで判断しているものの、最近は牛の発情そのものをチェックできるシステムも開発されてきており、将来的にはこうした機器の導入も視野に入れたさらなる自動化を図っていく考えだ。
 給餌は獣医師が策定したプログラムを忠実に実行することが重要で、配合飼料150`が必要であれば、人がそれを投入し切るまでブザーが鳴り止まないシステムを導入し、正確な給餌を行っている。
 ミルキングパーラーは16頭×2のダブルパラレルパーラーで、常時3人で作業している。搾乳は8時間おきに1日3回行う。吉野氏は「これだと夜の作業が大変だろうと言われるが、牛は等間隔での搾乳を好む。夜だけのパート労働力などを活用すれば解決できる」と話す。
 この日は研修生の中国人の女性が作業していた。吉野氏は「大幅な機械化、自動化を図っているので、搾乳の技術もいらないし、女性でも遜色ない作業が行える」と、自らの機械化体系に自信をみせた。