2.農業機械による農地土壌の放射性物質除去技術

(1)除去の作業手順

(独)農研機構 中央農業総合研究センター 作業技術研究領域 主任研究員 長坂 善禎

3月11日の東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故により、東日本の広範囲にわたって放射性物質が降下し、農地を含む広い範囲が汚染された。IAEAの報告によると、1986年のチュルノブイリ原子力発電所の事故後の調査では、降下した放射性物質による土壌汚染は表層に集中していることが報告されている。放射性物質を含む表層の土壌を除去することで、汚染された農地を利用可能な状態に回復させることが期待できる。このため井関農機株式会社、株式会社ヰセキ東北にご協力いただき、筆者らは飯舘村の農家ほ場で農業機械を利用して汚染された表土を除去し、土壌の放射性物質を低減する手法の実証試験を行ったので、その概要について報告する。今回は作業手順について、次回はその作業能率とその後の作付けについて報告を行う。

ほ場は農家の水田ほ場であり、昨年の水稲収穫以後そのままになっており、面積は8aであった。除去のための手順を次に示す。作業を実施する前に土壌の放射性物質の分布を調査したところ、ほとんどが地表付近にあり、3cm程度除去すれば作付け可能な状態になることが予測された。このため、4から5cm程度削り取ることを目標にした。作業には75馬力クラスのトラクタを使用した。

  1. 表土を削りやすいよう、ほ場の表土を膨軟にする。かくはんする土の上下方向の移動ができるだけ少なくなるよう、バーチカルハローを使用した。(写真1)
  2. 膨軟にした土を削り取り、ほ場外に持ち出しやすいよう集積する。リアブレードにより土を少しずつ削り取ってほ場内の集積場所まで移動させた。(写真2)
  3. 土を削り取った後に空間線量計で土壌表面の線量を計測し、十分に線量が下がっていない場合、その部分をもう一度バーチカルハローで土を膨軟にし、リアブレードで削り取る。場所によってムラがあるため、こまめな計測が必要であった。
  4. ほ場内に集積した土をフロントローダでトラックに積み込み、ほ場外に排出する。今回の試験では農家ほ場の近くのコンクリート敷きのたい肥置き場に集積した。(写真3)
  5. 排出した土が雨等で流出しないよう、土のう袋等に保管する。バックホーにより1トン入りの大型土のう袋に詰めた。

以上の作業により、除去前に10,000Bq/kgであった放射線量が除去後に2,600 Bq/kgとなった。除去した土は、1トン入りの土のう袋で37袋となり、除去した土の量から計算すると、表土は約4cm削られたこととなる。(次回に続く)