2)東アフリカの主要作物と農業機械化
(1) 稲作概要
東アフリカの稲作の歴史は新しく、インド型稲作(インディカ稲)、マレー型稲作(ジャワニカ稲)、中国型稲作(ジャポニカ稲)の農法が見られる。農耕・栽培・収穫・収穫後処理技術もそれぞれの稲作技術の導入とともに普及した。
在来農法からの技術改良は植民地時代から急激に進んでおり、アジア・南アジアの稲作技術の導入が見られる。農具の導入もそれぞれの農法の移転とともに伝わっている。
マダガスカル・タンザニア・ウガンダ・ザンビアについて、稲作概要を示す。
東アフリカのコメ(籾)の生産高を図-1に示す。
![]() (図-1)東アフリカのコメ(籾)の生産高 |
![]() (図−2)灌漑面積(1,000ha) (各表や写真はクリックすると拡大します) |
① マダガスカル
東アフリカではマダガスカルのコメ(籾)の生産高が一番高く、マダガスカル島内にもインド型・マレー型・中国型稲作がみられる。
水稲の移植栽培・直播栽培、陸稲の焼畑栽培があり、移植栽培では、収量2.8〜3.8 ton/ha(籾)、直播栽培では収量1.2〜1.9 ton/ha(籾)で、水田移植栽培の導入は1950〜55年頃で、正条植の導入は1966年頃と言われている。移植栽培の圃場は天水田が多く、灌漑水田は導入が進んできているが、まだ少ない(89万ha)。
移植栽培における播種時期は10〜12月、本田移植は12〜1月に行われる。播種量は150 ~ 170 kg/haである。直播栽培の播種時期は11〜1月に行われ、播種量は200kg〜300 kg/haで、泥状の本田に散播する。移植は乱雑植・密植が多く、正条植は普及していない。焼畑栽培での播種時期は10〜11月で、穴あけ点播が行われる。本田への施肥は行われていない。
除草作業は、移植栽培で2回/年、直播栽培では行われず、焼畑栽培で1回/年である。
収穫時期は4〜5月に水稲では鎌で根刈が行われ、陸稲ではインドネシア式のアニアニで穂刈が行われる。収穫後は圃場にニオ積にして1〜2か月乾燥される。
脱穀は牛の蹄による蹄圧脱穀が行われ、陸稲では人による踏圧脱穀が行われている。
栽培品種は、水稲で Makalioka ordinaire・Makalioka pure・Rojofotsy・Vary madinika・Vady Malady等、焼畑陸稲でSomotra・Bode maitso・Vary loza・Bemahasoa等がある。
注)東南アジアを中心に、イネの大幅な単収増加をもたらす低投入持続的稲作技術SRI (System of Rice Intensification) が普及し始めている。この技術は,1983年にマダカスカルで開発され,1999年以降広く世界で知られるようになった。SRI稲作の基本原則は,移植の際に乳苗(10日くらい)を広い間隔で1本植えし,間断灌漑を行うことである。この方法で植えつけられた苗は,分けつがよく,1つの株から多くの茎が育つ。また,穂のもとになる幼穂が茎の中にできるまでは,田面に水を張らないので,節水もできる。これまでに約20ヵ国で実証試験が行われ,多くの発展途上国で普及が進みつつある。(佐藤:東方インドネシアにおけるSRI稲作の経験と課題,根の研究,15(2):55-61,2006)
② タンザニア
栽培体系から見たタンザニアの稲作面積は、天水稲作が74%、陸稲作が20%、灌漑稲作が6%とみられている(2004年)。天水稲作・陸稲稲作は、降雨のみに依存することから、雨季に入ってから降雨後に直播する。在来品種を用いて無施肥で栽培されている。このような地域では、稲とバナナの混作、稲と野菜・豆類・トウモロコシ等畑作物との輪作が行われている。
圃場準備作業は、家族親族総出、または季節労働者を雇って人力で行うか、コントラクターのトラクター・パワーティラーの委託作業である。
灌漑稲作では、直播栽培と移植栽培の双方が定着しており、稈長の短い高収量品種を用いて化学肥料も投入されることから収量は安定して高い。低地で灌漑水に恵まれた地域では稲の二期作が行われることもある。
天水田の直播作業は種子予措なしで行われ、1回目の雨を待って、種籾を耕起・砕土された圃場に条播・点播・散播(バラ播き)で行う。播種量は約60 kg/ha程度である。
灌漑圃場においては、JICAプロジェクト周辺及び日本式稲作技術普及推進地区においては、正条植による移植が行われているが、直播が主流である。 栽培管理は「除草・病害虫防除・追肥・水管理」が行われる。
除草剤は高価であるのでほとんど使われない。病害虫防除は、被害の規模によって政府の航空機防除が行われる。収穫時期の大きな作業は、収穫直前の鳥追い作業である。早朝から夕刻まで音と泥団子の投擲によって鳥追いを行っている。
元肥・追肥も投入されており元肥は尿素・TPSが投入され、追肥は尿素だけの場合が多い。
刈取は鎌によって株の下部が刈られる。刈取時の籾水分は18%〜25%で、脱穀は圃場で行われる。脱穀後の水分は17%〜20%で、籾は袋詰めされて農家に搬入され、庭先で天日乾燥・風選されて保管される。
JICAのこれまでの技術移転の波及効果がキリマンジャロ州を起点にバガモヨ・ムワンザ・シニャンガ・モロゴロ・イリンガ・ムベヤとタンザニア全国の主要稲作地域に広がってきている。
![]() アリューシャ近郊 レキタトゥ灌漑地区の移植 |
![]() バガモヨ地区の移植前の水田 |
![]() パガモヨ地区の移植作業と苗 |
![]() 直播前の圃場準備作業 |
![]() 点播 |
![]() キリマンジャロ山麓のJICA展示圃場 |
![]() 鳥追い・泥団子を投擲ヒモで投げる |
![]() 在来種の穂刈(シニャンガ) |
![]() ムベア(イルグシ)の刈取 |
③ ウガンダ
ウガンダは内陸国で、ビクトリア湖の畔にある首都カンパラの標高は1,190m である。
ウガンダの稲作の歴史は浅いが、稲作への気象条件はよく、コメは換金作物として注目されて普及が進んでいる。
東アフリカにおけるネリカ米(NERICA:New Rice for Africa) の栽培技術研究開発・普及の拠点がワキソ県ナムロンゲの国立作物資源研究所内にJICA NERICAプロジェクト事務所・試験圃場・研修所がある。
ビクトリア湖北岸のウガンダ東部・北部は低湿地が多く、ビクトリア湖から流出するビクトリア・ナイル(白ナイル)の源流地点でもある。JICAの東部ウガンダ持続型灌漑農業開発対象地域でもあり、灌漑稲作が行われている。水田においてもネリカ米の生産が始まっている。
一方、その他の地域は丘陵地域が多く、陸稲としてのネリカ米の普及が進んできており、西部のホイマ県の中央市場には既にネリカ米が流通しており、ネリカ米の普及とともに賃搗精米工場建設がブームになっている。
![]() 苗 床 |
![]() 移植作業(乱雑植え) |
![]() 生育中の稲圃場 |
![]() 稲の収穫 |
![]() 脱穀場への運搬とニオ積 |
![]() 脱脱穀棒での脱穀作業 |
![]() 刈取後の野焼き |
![]() 脱穀籾の運搬 |
![]() 乾燥場と風選作業 |
④ スーダン
白ナイル河・青ナイル河からの灌漑設備はアフリカ最大の灌漑面積170万haを有するスーダンはアフリカの穀倉とも言われている。農産物はソルガム・ゴマ・ミレット・落花生・小麦・綿花等で、コメは新しい農作物である。コメは価格が安定しており、換金作物として評判もよく、政府が主導して奨励を進めている。ナイル河畔の湿地帯で生産される有芒種で糠層が赤い在来種(Swamp Rice)があるが、搗精が難しく、食味にも難がある。政府主導のネリカ米の普及が始まったところであり、JICAもネリカ米の普及に協力している。
スーダンでは1筆の圃場が2 ha と大きく、大型機械による営農である。農家は計画経済時代に行われた農業公社主導よる賃耕・賃脱穀からの習性が抜けきっていない。現在でもほとんどの作業が委託作業で営農されている。在来穀物・綿花価格が低迷する中、農家は生産するだけ赤字になるので灌漑圃場の4割近く(2010年) が栽培放棄されており、政府は稲作への転換を図っている。稲作転換が成功すると広大な灌漑設備を有するスーダンは、アフリカ最大の稲作国となり、近隣の中東・アフリカへのコメ輸出国となる。
![]() 第3次灌漑水路 |
![]() 第3次水路からチューブ灌漑 |
![]() チューブからの配水(NERICA) |
![]() ネリカ米デモ圃場 |
![]() ナイル河湿地帯のスワンプ米 |
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![]() ソルガム圃場とコンバイン |
![]() ソルガム |
⑤ ザンビア
ザンビアの農業は、年間降雨量によって3つの帯状の農業生態地域に区分されており、第1地帯はザンビア南部で年間降雨量が800 mm以下で、国土の12%を占め、第2地帯はザンビア中部で800〜1,000 mmで国土の42%、第3地帯はザンビア北部で1,000〜1,500 mmで国土の42%を占める。
第1地帯は、弱アルカリ性で、表土は浅く、綿花・ゴマ・ソルガム・ミレット等耐干性の作物に向いている。
第2地帯は、高原平地で土壌はおおむね肥沃であるが、弱酸性で粘性が強く、乾季には固くなる。作物生産が盛んで、コメ・キャッサバ・トウモロコシ・綿花・タバコ・ヒマワリ・大豆・小麦・落花生等が栽培され、野菜・畜産も盛んである。
第3地帯は湿潤で、酸性土壌が多い。ミレット・キャッサバ・ソルガム・豆類等の栽培に適し、コメ・サトウキビ・パイナップルも栽培されている。
農業形態は経営規模により分類されており、大規模商業農場(20 ha以上 2,000〜3,000 haが多い)、中規模商業農場(5〜20 ha)、小規模自給農家(5 ha以下)に新興商業農場である。
中規模以上は、近代的な灌漑設備・大型ハウスを整えており、内陸国であるので、ヨーロッパ市場へ向けての空輸による輸出が行われている。主要食用作物の需給はここ数年バランスが取れている。
コメ営農の歴史は新しく、今後ネリカ米の普及が待たれる。