長崎県立農業大学校における農業機械化研修
及び 農作業安全研修の現状と課題

長崎県立農業大学校 研修部 原 英雄

1 長崎県農業の概況 

長崎県は、九州の西北部に位置し、多くの離島や半島を抱え、地形は複雑で、傾斜地が多い。気候は、対馬暖流の影響を受け海洋性気候を呈するため、温暖である。耕地面積は、50、900ha(H20年)で、水田の比率より畑の比率がやや大きい。基幹的農業従事者は、38、655人で、年々減少しており、うち65歳以上は、全体の5割を上回っている(2010年センサス)。農業算出額は、1、396億円で、耕種部門では、米、ばれいしょ、いちご、みかん、畜産部門では、肉用牛、豚、生乳、鶏卵が主要なものとなっている(H20年)。

2 長崎県における農作業事故の発生状況

変化に富んだ地形は、県下各地域で多種、多様な農産物が生み出されるベースになっているものの、同時に、本県の場合、大半の農地が中山間地に位置するため、面積が狭く、不整形で、傾斜の付いた圃場が多いこと等を意味しており、事故発生の要因にもなっている。農作業事故のうち死亡事故は表1に示したように、県下で毎年、平均9.2件の発生が見られ、原因別ではトラクタの28.3%が最も多く、次いで農用運搬車15.2%となっており農業機械作業に係るものが全体の半数を超えている。また、年齢別に60歳代13.0%、70歳代30.4%、80歳代43.5%であり、60歳代以上が全体の9割近くを占めている。これらの数値から、今日、トラクタが農家の基本装備になっている状況や、農家の高齢化に伴う認知・運動能力の低下に加え、高齢者によって担われている本県農業の実情を覗い知ることができる。


3 長崎県立農業大学校における農業機械化研修及び農作業安全研修の概要

長崎県立農業大学校研修部(平成9年度以前は農業機械研修所)は、長年、農家や農大生を対象に農業機械士資格取得のための研修や授業を行っており、これらを中心にその他一連の研修によって、県下の農作業安全推進の一翼を担っている。

「農業機械士」は、農業機械の利用に関する一定レベルの技能及び知識を身に付けた農家や農大生に対し、知事が認定する資格であり、研修や授業を通じ、資格を取得した農家や農大生の総数は、現在までの間に2,000人を超えている。農業機械士資格取得者によって「長崎県農業機械士連絡協議会」が組織されて、地域での農作業安全推進の主体となっている。現在、会員40名余りが2支部4分会に分かれ、春、秋の農作業安全月間の広報活動、地域の農業祭やJAの農機展示会等における農作業安全コーナーの運営等に取り組んでいる。

農業大学校の「大特安全特別研修」は「トラクタ研修」とも称され、3日間で農作業安全やトラクタ基本操作に関する知識や技能の修得に加え、大型特殊自動車(農耕用)運転免許取得を目指すものである。主に農家を対象に年間8回程実施し、毎回20名を受け入れている。この研修は、前、後期合せて10日間で実施される「農業機械士養成研修」から派生している。「けん引(農耕用)安全特別研修」は、「トレーラ研修」とも称され、農作業安全やトレーラけん引基本操作に関する知識や技能の修得に加え、けん引(農耕用)運転免許取得を内容とする研修であり、期間は4日間で、年4回程実施し毎回20名を受け入れている(写真1,2)。その他、地域の要望に応じ、農業者大学校研修部が講師として現地に入いる、「農作業安全現地研修」を行っている。昨年度は、長崎市の農業ヘルパー研修生、JAながさき西海みかん部会員、五島市の認定農業者で、けん引(農耕用)運転免許取得を希望する農家に対し、この研修を行なった。

4 長崎県立農業大学校における農業機械化研修及び農作業安全研修の課題

「農業機械士養成研修」については、研修期間が、前、後期合せて10日間と長いため、農家は、期間が短く、回数の多い「大特安全特別研修」の方を選ぶ傾向が見られ、受講者が長らく少ないまま、推移している(H20年度5名、H21年度3名、H22年度7名)。従って、今後、受講者を増やすためには、研修内容をより一層充実させることに加え、農業機械士の知名度や地位向上を図るような環境作りが重要である。例えば、一部の県で見られる高性能農業機械導入補助事業の採択に当たり、申請者の農業機械士資格取得の有無を確認するようなことが必要と思われる。また、農業機械士会については、会員確保が喫緊の課題である。そのためには、会員メリットが実感できるような仕組み作りが必要と考えられる。昨年度から「けん引安全特別研修」の一部に農業機械士等を対象とする研修を設け、農業機械士会役員が推薦する会員や農家を優先的に受け入れるようにしている。このようことを今後とも継続して行きたい。さらに、農作業安全現地研修については、関係機関と連携しつつ、現地が研修を主体的に継続していくよう働きかけていくことが大切であると思う。