BDF農業機械利用産地モデル確立事業全国検討会 講演(1)
事業実施地区報告
広島県北広島町における菜の花プロジェクト活動

NPO法人INE OASA 事務局長 隅岡 忠司氏

“菜の花”から『資源循環型社会』の実現を!
隅岡忠司氏
 北広島町は、広島の北に位置し、広島県と島根県の県境にあり、冬季は積雪の多い地域です。2005年に4町、大朝町と近隣3町が合併して人口約2万1000人の北広島町となりました。
 INE OASA(いいね おおあさ)の活動は、2000年から「よみがえれOASA」というスローガンを掲げて臨んでいます。「“菜の花”から『資源循環型社会』の実現を!」ということで、これを具体的に申しますと、全国各地で実践されている菜の花エコプロジェクトの理念を核として、過疎高齢化が深刻になっている本町において、地域活性化に寄与する方法をこの活動を通して模索しています。
 また活動を実践する上では、3点のプロジェクトの活動に分けています。1つ目は菜の花ECOプロジェクトで活動の柱になる部分です。2つ目は絆プロジェクトです。環境問題、資源循環型社会をテーマにしたイベント、講演会、地域説明会を行います。普及啓発活動がここに該当します。小学校の総合学習での環境学習を実施し、都市と農村の交流をテーマにした体験学習の企画も行っています。
 3つ目は、「ぴゅあ菜プロジェクト」です。菜の花と本町の基幹産業である水稲を組み合わせた米のブランド化を進めています。現在は「キララ米」という名前をつけて販売しています。
 菜の花プロジェクトは、休耕田に菜の花を蒔き、刈り取りをし搾油をし、油を絞って販売します。学校給食や家庭で、その菜種油を使っていただき、使用済みの油を私たちが回収して、その油をBDFの燃料にします。現在は、スクールバス、コンバイン、トラクター、発電機などの燃料にしています。
 ここに至る経緯についてですが、菜の花プロジェクトを始めたのが2000年です。菜の花プロジェクトとの出会いは、理事長の保田と環境関連事業に興味を持っていたとき、偶然、滋賀県愛東町、今の東近江市を通りかかり、ある会社の方にここの町の公用車は天ぷら油で走ると聞きました。その時理事長の保田はこれだと思ったようです。それから何回か、愛東町に行って話を聞き、菜の花プロジェクトを継続することにより町おこしができるのではないかと考えるようになりました。このフローを行政に提案しましたが、最初は理解してもらえませんでした。今では、その効果の何点かが実現し、たとえば、「注目されるまち化」といったところでは、年々視察がたくさん来られます。

菜種栽培の多くは手作業で

 本町における菜種栽培について紹介します。菜種栽培は「栽培暦」を農家の方に渡して実施しています。土作りに配慮しながら、堆肥など有機肥料を使い栽培しています。9月下旬から10月にかけては、稲刈りをした後、菜種の播種をしなければなりませんので、農家の方は忙しい時期に当たります。
 私たちはNPOで農業機械を持っていません。農家の方に機械をお借りするのですが、ほとんど人力でやる部分の方が今のところは多く、狭い農地が多いので、それに対応する機材が乏しいのが現状です。
 開花の時は、普及、啓発を図る絶好の機会です。沢山の人が来られますので菜の花畑の横でBDFトラクターの試乗会などをして、皆さんに感想などを伺っています。
 収穫はこれまで、課題を解決できないひとつでした。汎用コンバインで収穫をしていますが、私たちの汎用コンバインは、大豆生産組合さんから借りており、機種が古いために性能が悪く、ロス率が多く、刈った際に種が機外に出ていました。今年は、中国ヰセキさんのご厚意で、デモ機を無償でお借りしました。こぼれ種が少なく、選別作業が終わっている状態の種が出てきます。大きな差があるのを実感できました。
 その後、菜種の乾燥を天日干しでします。選別については、動力唐箕を使っています。北海道から取り寄せたものです。
 収穫した菜種の利用ですが、私たちは、搾油施設を持っていません。隣の島根県の、昔ながらの搾油を行う「景山製油所」さんで絞ってもらい、安心して召し上がっていただくようになっています。ちなみに私たちの菜種油はエルシン酸が少なく、オレイン酸が豊富な油です。

廃食油回収量は月1200L超す

 廃食油の回収について説明します。
 廃食油の回収システムは、地域によって住民参加度合いに差があるので、回収方法を分けています。1つは各集落で集荷所にひとつにまとめていただいて、私たちが各集落を巡回して回収する方法。2つ目は、集落で集めたものを代表者の方に指定の場所に持ってきてもらう方法です。そのほか、学校給食、病院、事業所などは、月に1回収集しています。廃食油の回収は住民の理解が得られないと量が増えません。そのために普及啓発を積極的に行っています。私たちは回収業の許可を得て回収しており、廃食油の再生目的で許可を得ているのは全国でも、多分私たちだけではないかと思います。
 廃食油の回収実績は、一番最初に始めた2000年には、わずか10Lぐらいしかありませんでした。それが2007年には1万3000L、2008年には月に1200〜1500Lの回収をしています。2005年には町村合併をしたために廃食油の回収量が増えました。
 バイオディーゼルの精製機の購入の経緯ですが、2000年私たちは資金を持たず活動を始めました。当然精製機械を導入する費用があるわけではなく、どうやってこの機材を導入したかといいますと、まず、私たちはこの菜の花プロジェクトで町おこしができないかということで、住民の方にその思いを伝えました。そうすると、旧大朝町の方から220万円という大きなお金をいただきました。これが大変励みになりました。次いで広島県の共同募金会にこの活動と住民の盛り上がりに着目していただき、更に200万円をいただきました。その後、行政から、NPOに認証されるという条件の下に200万円をいただきました。その合わせて620万円、足りない分はメンバーが出したりして、ようやく機械を買うことができました。以後、この精製機は今も使っているのですが、十分活躍しています。

トラクターなどにBDF利用

 バイオディーゼルの生産量は、今では9000Lぐらいになっています。利用先は、子どものスクールバス、広島市でデパートと広島駅をつなぐシャトルバス、トラクター、コンバイン、発電機などです。発電機を使ってプラントを動かすこともやっています。
 これまでBDF使用車両に、稀にではありますが、不具合が生じることがありました。その原因はエステル交換が不完全であることなどの理由が挙げられています。エステル交換を完全に行うためには、反応前に不純物を取り除くことが望ましいことが分かっていましたが、私たちはお金がなくて、再度住民の皆さんにお願いをして、この機械を買うことができました。また、農林水産省から、「地域未活用バイオマス交付金」を2分の1ほどいただいてこの機械の購入に当てさせてもらっています。本年度、この事業の中に品質検査という項目がありますので、何回か検査を実施したいと思っています。また、利便性の向上対策のためにタンクローリーを購入しました。
 本事業における調査項目についてですが、農業機械、バイオディーゼル適応性の確認ということで、トラクターとコンバインの燃料系のホースなどをBDFに耐えられるものと交換し、使用状況と劣化状況を調べています。これにはヤンマー農機西日本のお力をお借りしています。
 バイオディーゼルの品質の確認は、EU規格の39項目に準ずる品質検査を実施します。また、バイオディーゼル保存方法の確立、酸化防止剤の適正量の確認、菜種の収穫効率の向上、汎用コンバインの改良、さらに、菜種に適したキットの効果の検証、普及啓発活動ということで環境学習の実施と住民参加の呼びかけを行います。

地域でのBDF利用を進める施策を

 まとめですが、政策に対しての要望です。まず、BDFの品質に関する法律(品確法)が施行されることにより、私たちが進めてきたエネルギーの地産地消の推進が困難になってくることが大いに考えられます。新しい法律では、再三検査を求めたり、施設改善が必要など私たちの小規模生産では大変な負担になります。それを変えろとはいいませんが、少なくとも農業利用に関しては、私たちのような地域ぐるみの活動を進めるため、せめて、農業機械には品確法に準ずるような施策をとっていただきたくないということがあります。
 2番目は、農業機械の排ガス規制が強化され、それに対応するためにコモンレール方式、DPFマフラーなどが標準装備になってくると思います。機械がハイテクになると、BDFを100%使うと支障が出てきます。車も支障が出るため、品確法で5%混合とされたわけです。廃ガス規制をすればメリットもあります。廃ガス規制をとるか、二酸化炭素の、BDFを使っての削減をとるか、それをよく考えてやっていただきたいと思います。
 また、菜種を他の転作作物と同等に扱うということですが、菜種は収益性が乏しい作物です。菜種に限りませんが、少なくとも一定の生産量を生産する努力をしている農家には支援をしていただきたいと思います。国産食用菜種の普及を前提に、遺伝子組み換えの種を播けないようにして、国産の菜種が普及するようにしていただきたいと思います。



ひとつもどる