新たな水田輪作営農体系の構築と担い手
中央農業総合研究センター農業経営研究チーム長 梅本 雅
新たな水田輪作営農体系とは
 新たな水田輪作営農体系ということで、なぜ「新たな」といっているかというと、従来のブロックローテーションに、もう少し新たな意味を付加したいということで「新たな」といっています。
 その1つは、分散した圃場での輪作ではなく、地域的な土地利用に支えられた農場制農業としての水田輪作体系で、地域的な土地利用調整を重視したいということです。団地化を、生産調整の助成にかかる団地化加算を受けるという意味ではなく、担い手が生産性を最も高められるような取り組み。場所も考え作業の効率も考え、農場制農業といっていますが、土地利用調整が合理的になされて、その上で生産性の高い経営能力のある担い手が農場の業を行う、そういう姿をいっています。
 そういう土地利用調整と担い手が2つ揃った土地利用型農業が行われている水田輪作体系を目指していくべきであると考えています。
技術的合理性に基づく水田輪作体系
 2つ目は、転作対応を主な目的とするブロックローテーションから、技術的合理性に基づく水田輪作体系を考えていこうということです。
 転作対応を目的とするブロックローテーションとは、多くの場合、例えば転作率が25%だったら4年に1回もってきて、全体で1通り回る、3分の1ぐらいであったら、3年に1回の転作にして、すべての圃場が順番に転換田が当たるという、転作を平等化するような考え方に基づいて設定されているケースが結構あります。
 ただ現地の圃場をみていると、地域内においても転作に不適な圃場があります。必ずしも畑地的な利用に向かないところもあります。順番に回すということで、そうした排水性とかは考慮されないで転作地が設定されているということがあります。また、圃場によっては、畑期間を2年おいた方が栽培上望ましいケースがあります。そこでも1年で回ってしまいます。
 菱沼さんもうですが、転作受託は、水稲は別の方がやって、麦や大豆の転作作物だけを菱沼さんが耕作されるというケースがみられます。いろいろなところで聞くと、水稲の作業をするのに、ワラが残っていたり大豆の殻が残っていたりするというのは地権者の方が嫌がるので、せっかくの有機物である麦桿とか大豆の殻を持ち出してしまう、あるいは燃やしてしまう、そういうケースもあります。
 あるいは、畑作物を作るには水田の排水性を良くした方がいいわけですから、排水対策をしたいのですが、そうすると次の水稲作にとって作業がしづらくなるとか水持ちが悪くなるといった理由で、止めてほしいという話になる。本当は、水田農業というのは水稲だけではだめなので、水稲以外の作物をどう経営として取り入れていくかという観点が必要だろうと思いますが、必ずしもそういう考慮ではなくて、米をどう作るか、米を簡単に、倒れないように作るかという観点がかなり入った体系になってきてしまうというものがみられます。
 そうではなくて、技術合理性、これからの品目横断的経営安定対策の下で、稲・麦・大豆を基幹とする水田作経営をやっていこうと思えば、それらの作物の生産性を上げていくことが不可欠ですので、その技術合理性というものを重視した輪作体系に持っていく必要がある、ということです。
 経営者の発想で、作付け体系や土地利用が決められるような、そういう輪作体系にしていく必要があるのではないか、ということです。
新技術を積極的に導入した輪作体系
 3つ目は、慣行技術に、少しでも生産性の高い新しい技術を積極的に導入した、より生産性の高い、コストも低い、そういう輪作体系を作っていく必要があるということです。
 それにより、地域の農業構造が再編され、品目横断的経営安定対策などの新たな制度の下での、中核的な担い手によって営まれる水田輪作体系を作っていくことが重要だと思っています。
高生産性水田輪作体系の狙い
 新たな水田輪作営農の基礎となる、高生産性水田輪作体系についてですが、関東の平坦地域を対象にみると、水田での作物は、稲・麦・大豆が中心になっていて、関東での稲・麦・大豆の作付シェアは我が国の中でも大きな割合を占めています。大都市に近い、兼業機会が豊富であるということもあり、菱沼さんのような大規模経営が進んでいます。かなり農地集積が進んでおり、数十haの面積になっているわけです。麦・大豆はほとんどが担い手によって耕作されているのが実態で、その耕作面積も多いところでは20、30haという面積になっています。それだけの大規模化となると作業競合が発生します。
 水稲の移植をして、その後、麦の収穫があります。その後、梅雨の時期に大豆の播種が来る。麦の収穫から大豆の播種にかけての作業競合。秋の場合では、水稲を収穫して、ソバが入ったりして、大豆の収穫、麦播種という形で、作物切り換え時に非常に厳しい作業競合が発生します。
 そういうことがあり、麦・大豆作というのは、播種時期の遅延の問題から減収、品質低下が生じています。
 水稲作についても、ここにコストをかけずに規模拡大を進めていくには、一層の省力化が必要となっています。規模拡大すると普通はコストが下がります。数haぐらいまではコストが下がるのですが、15、20haとなってきますと上がってきます。なぜ上がるかというと、規模が大きくなったらそれに応じて機械の台数も増えていく、必要な労働力も増えていくということで、一向にコストが下がらない。そこに大きな問題があります。
 こういうものを解消するものとして、水稲の乾田直播のようなものを入れていく。それによって移植栽培そのものの省力化を図っていくことが強く求められているのだと思います。いわば、コスト面の対応、品質・収量をあげていく、規模拡大に対応していく、これが非常に重要な課題になっています。それにどう応えるかが、新しい水田輪作体系であろうと思います。
開発・普及を目指している高生産性輪作体系の内容
 そういうことを考えて、関東の比較的排水条件のよい水田土壌を念頭において技術開発を進めています。
 水稲については、不耕起乾田直播と、移植栽培の1つであるロングマット水耕苗移植を組み合わせて作期分散する、軽労化、低コスト化を図るということを考えています。
 麦・大豆は汎用型不耕起播種機を用いて不耕起栽培、浅耕播種栽培を中核に、狭畦栽培などの新技術を導入するということを考えています。
 これらを組み合わせて、水稲・麦・大豆の4年6作、地域によっては水稲・水稲・麦・大豆という3年4作という体系も考えられます。そういう輪作体系を確立するという研究をしています。
 基本的な考え方は、不耕起栽培、水稲の不耕起乾田直播も含め、播種機は1つでコストを下げていきたい。それと省力化を図りたい。適期作業化を図りたい。移植栽培も入れているのは、不耕起栽培だけで大丈夫かどうか、雑草制御に問題はないか、あるいは圃場の漏水対策に問題はないのかという点について、必ずしも十分な検証ができていません。不耕起での一貫した体系は、コストを下げるのに一番大きく寄与すると思いますが、まだまだ技術的なところで詰めなくてはいけないところがあり、それもあって移植栽培を入れています。
品目横断的経営安定対策下における担い手経営の方向
 品目横断的経営安定対策の1つの特徴というのは、緑ゲタが入ってきたということです。これの1つの意味は、水田作経営にとっては安定的な収入源を持ったと考えてよいと思います。大規模経営には、経営安定化効果を持つということで、是非これを活かしていきたい。
 問題は、良いものを穫らないとダメだということです。
 小麦の場合、3割が黄ゲタとなり、1等のAランクを100とすると、従来制度では一番良いものと悪い品質の差というのは、悪いのは30%減でした。新しい制度は一番良いものに対して悪いものは90%減です。大麦の場合、一番よいものに対して、新しい制度では1等100に対して2等Dは5%にしかなりません。大豆についても、従来は価格差がなかったのですが、今回は麦ほどではないのですが、非銘柄の普通の3等ですと59%ということになってきます。
 いわば、これまでの制度以上に良いものを穫らないと収入が下がる、黄ゲタの部分が下がるという、そういう制度になっています。これからの制度の下では収量をキチッと穫っていくと同時に、品質を良くしていくということが、経営としての収入を上げる上でも非常に重要だということです。
 生産性を上げる、収量・品質をとっていく、特に品質をとっていくということが、従来以上に重要になってくるということであろうと思います。
 もう1つ注意したいのは、今回の制度というのは資金繰りに非常に大きな影響を与える可能性があるということです。従来では、麦は7月に麦作安定資金と麦の代金が振り込まれていたと思います。大豆については、4月頃生産物の代金が入って、12月に交付金が入ったということですけど、今度の新しい施策の場合には、麦・大豆は7月に麦の代金だけが入って、12月に緑ゲタ、3月に黄ゲタが入るようになります。ですから、ずいぶん遅れて収入が入ってくるということです。
 大豆も12月に緑ゲタが入ることは同じですが、3割に相当する黄ゲタについては3月に遅れていくということで、回っていけば同じことになりますが、特に来年度については収入の時期が遅れます。大規模経営であれば計算しますと、800万から900万円ぐらいの資金ショートが発生します。
 そういう意味では、資金の対策をとっていくということが重要になり、稲・麦・大豆以外の多角化ということも検討していくことが、資金繰りという観点からだけではないのですが、求められるということです。
新制度下の水田作経営の方向
 新制度下の水田作経営の方向ということで、発想としては稲作中心を止めて、稲・麦・大豆を基幹にする経営にすることです。そのように発想を変えることが重要だと思います。
 ある経営では、毎年収入が伸びる中で、麦・大豆の販売割合が半分を超えるようになっています。これは偏に米価が下がってきて、それにより水稲の収入が減っていった、それに対応するものとして麦・大豆が増えたということですが、販売金額全体でいえば、稲と麦・大豆が半々という状況になってきています。
 新しい制度で試算をしていますが、本当に安定的効率的経営体という形で、そこの担い手が他産業並みの所得を得られるということを考えていくと、経営面積でいうと15〜20ha以上、あるいは15haの経営面積に麦・大豆を転作受託としてやっていくということを考えていかないと、他産業並みの所得水準になりません。施策の要件は4haで担い手ですけども、4haで稲・麦・大豆では十分な所得は得られません。さらに土地の集積を進めていく必要があるということで、その加速化が重要です。
 それから、麦・大豆の収量の高位安定化ということで、大規模経営になってきますと、10%の収量の増加というのは経営に非常に大きな影響を与えます。稲の10%増加と、麦・大豆の収量増加の可能性というのは、その可能性、意味合いが違います。麦・大豆についてはまだまだ収量を上げる余地があります。大豆の場合は、落ちていくものを落とさないようにするだけで収量が20〜30%増えます。その可能性を考えると、まだまだ高位安定化の方法はあるのだろうと思いますし、品質を重視していく必要があるということです。
 こういったことをする上で、新しい技術が有効な役割を果たしていくだろうと思っています。
 また、経営の多角化ということで、資金繰りのためとか、雇用労力をどう入れて、そこにいかに仕事を作っていくかいうこともありますし、新たな事業展開の契機としていくということもあります。
これからの水田農業、水田作経営の対応方向
 これからの水田農業、水田作経営の対応方向としては、規模拡大への対応と収量・品質の高位安定化と、不耕起栽培などの省力技術の導入、そしてコストをいかに下げるかということをやっていく。品質の評価というのは、個々の経営レベルではなくて、JA単位でやりますので産地レベルで品質を安定化させなくてはいけない。ただ、新しい対策では特定の担い手に麦・大豆の生産が委ねられることになっていくわけです。そういう特定の担い手で一定の産地レベルの麦・大豆を作るということを、特に品質の高位安定化にどうつなげるか。その意味では栽培方法を統一するとかによって品質を良くすることが重要だろうと思います。
 また、担い手と土地利用調整組織とが連携していくことが重要だろうと思います。
 こうした地域的な取り組み、新しい技術の導入、それらを通して大規模な水田複合経営、あるいは集落営農を作っていく。こういう人達が我が国の水田農業の多くを担う体制を構築していくことが重要であって、新たな水田輪作営農体系というのは、その基盤条件として機能していくものであろうと考えています。

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