紙マルチ田植機による特別栽培米作りの実践
 鳥取県・財団法人岩美町農業振興公社事務局長・岸本利博氏

鳥取発の紙マルチ栽培に挑戦
営農や販路開拓を支援
ブランド米づくりや地産地消を推進
販売量の拡大と低コスト化のために
岩美町では9割近く圃場整備されていますが、狭い水田が多く、大型化が難しい状況にあります。立地を活かした栽培の模索によって2つが選ばれました。1つは、他産地との競争という点から、付加価値の高い米作りを目指す必要がありました。きれいな自然がたくさん残っていることを活かし、棚田や清流のイメージを利用することでした。2つ目は、環境保全型農業を取り入れ、いかに高品質・高付加価値を実現するかでした。
 たどり着いたのは、我が県から発信された環境保全型農業の代表、紙マルチ栽培です。この2つを出発点に売れる米作りのためにスタートした次第です。

鳥取発の紙マルチ栽培に挑戦
我々が着目し導入に至った新しい技術は、紙マルチによる特別栽培米です。また、それでできた特別栽培米をいかに消費地に知ってもらうかでした。地方の小さな生産地としては、農協に頼りっぱなしで、我々にとってはすべてが初めてのことで、革新的な挑戦でした。
 紙マルチは、除草剤を使用せず、元鳥取大学の津野先生が産官学の共同開発を呼びかけ、永年の研究と緊プロ開発事業を経て完成、普及に至ったと聞いています。田んぼ全面に紙を敷くことにより、紙は光を通さないので雑草に日が当たらず、雑草の生長を抑えます。化学的な除草と異なり物理的な除草法に区分されている技術です。
 作業体系を有機と比較しますと、両方とも除草剤を使わない体系ですが、有機栽培は手取り除草に苦しめられていました。これを紙マルチは40日から50日、草を抑えます。その後分解し、有機質として利用されます。
 普通、有機では田植えから夏までの間、草に悩まされるのですが、紙マルチはほとんど田に入らなくてもよいというのが助かるところです。紙が敷いてあると除草剤を使っていない証明になる場合もあります。また、紙マルチの導入で面積拡大も可能になりましたので、大面積で必要な新技術にも挑戦してみようかという気にもなりました。
 化学肥料も徹底して減らし、現在は無化学肥料で栽培できるようになりました。町内の篤農家の技術と紙マルチが後押ししてくれています。農薬は、最高で8割減に届くようになりました。
  
営農や販路開拓を支援
こうした特色ある技術に取り組むことを決め、導入・普及に向けて行動を開始しました。
 導入上、栽培委託やお米の受注・出荷依頼に農業公社の仕事として必要であったものは、営農支援や販路開拓があげられます。まず、面積拡大のために、支援の1つ目は生産コスト低減に向けた取り組みで、営農支援と再生紙購入資金の補助を行いました。営農支援は、要は機械管理を代わりにやってあげたこと、また、一緒になって作業したことです。再生紙購入資金の補助は、紙代が半分になるように補助しました。ただし、順調にすべり出した今では打ち切っています。
 団地化推進については、農業公社の得意分野になると思いますが、水田の集積・団地化を、生活排水の入らない上流部に集めて生産者を決め、特別栽培の委託を行いました。長期的にみて、こういう団地の形成を特別栽培や有機の団地づくりに活かすことが公社の役目だと考えています。
 普及は、平成12年に酒米の五百万石1.8haからでした。こだわりの地酒を開発するため、五百万石の減農薬栽培を開始しましたが、蔵元が完全有機を希望したため、酒米の産地狙いから特別栽培米に方針転換し、普及を図り、16年現在の紙マルチの作付けは16.8haまで広がっています。
ブランド米づくりや地産地消を推進
販路の拡大推進のためには、@宅配便による産直の拡大Aブランドの立ち上げB地産地消への取り組み―を行いました。
 ブランドは、「清流そだち」に続き、「岩美こしひかり」という第2ブランドまで立ち上げることができました。こうしたことができるのも、消費者が紙マルチ米を評価してくれたからです。一方、団地化した農家側も、今までより高く売れ、採算が合うからこそ続けられると言っています。
 地産地消への取り組みでは、紙マルチ米の地元給食への供給を提案し、実施にこぎつけました。また、公社の直売所で地元客への販売にも力を入れています。新技術に取り組む中で、情報発信として、農業公社から宅配するお米には特別なラベルが貼ってあり、2次元バーコードを採用し消費者が携帯電話で生産履歴を瞬時に見ることができるようにしました。
紙マルチ栽培米「岩美こしひかり」 生産履歴照会システム
販売量の拡大と低コスト化のために
将来方向と今後の課題としては、特別栽培米のブランド化を進めることにより売れる米を作ろう、売っていこうという狙いで、地区ブランド米を増加させようと考えています。
 これまで各方面の協力を得て、順調に来ていますが、岩美町として、また農業公社としてまだまだ課題は山積しています。紙マルチ栽培を普及させるためには、販売量の拡大とコスト低減が避けて通れないと考えましたので、@低価格機や安価な再生紙が望まれるAJAS認証に対応した一連の施設の整備が必要(切り替えロスが少なく、混米が防止できる施設)B簡単に入力できるトレーサビリティシステムの拡大C中山間地で環境保全型農業を続けるために、行政各方面からの支援が不可欠――等が必要だと考えています。