新しい水田農業を拓く不耕起V溝直播栽培
 愛知県農業総合試験場作物研究部作物グループ主任研究員・濱田千裕氏
不耕起V溝直播栽培は、10年前に私どもと安城市の和泉営農組合で実証試験を行い、現在800haで行われています。この直播には、5つの大きな要素があります。1つは直播機。それから不耕起代かきという播種前の整地技術。次いで、肥料を播種溝の中に一緒に撒いてしまうという技術。それから雑草の防止技術。そして種子を殺菌する技術です。

V溝播種機の構造と特徴
冬季代かきと組み合わせて
施肥は1回、出芽直前に除草剤散布

V溝播種機の構造と特徴
まず、播種機は、深さ5pのV字型の溝が切れる作溝輪と、その溝に肥料と種子を一緒に撒くためのガイドパイプ、覆土チェンなどで構成されています。最も大きな特徴は、時速がだいたい6qと作業能率が非常に速いということです。不耕起なのでいつでも播け、速度が速いことで、播く時期を選ばす大きな面積が播けるという特徴を持っています。
 作溝部は、深さが5p、幅が2pの溝を作ります。深さが5pというのは、乾田直播きでは非常に深い位置ですが、この播き方では必ず種の上に芽が出る頃に亀裂が入り、芽が出てきます。このように非常に深い位置に播種できるというのも大きな特徴です。
 肥料と種を播くガイドパイプは、播種溝に接地しており、確実に播くことができます。種が一直線に狭い範囲に並んでいるので殺菌剤の効果が維持されやすく、出芽を高める効果もあります。
 不耕起の圃場で、硬いところに深く播くので、倒伏に強く、コシヒカリの直播ができるということが、この直播が拡大する要因となっています。
不耕起V溝直播機の播種様式(模式図)

冬季代かきと組み合わせて
不耕起播種というと、全く耕起をしないで前作の残渣などがあるところに播種するというイメージがありますが、それでは当然、正確な播種がしにくく、水が漏れやすくなります。これは冬季代かきを行い、そこに播種をします。安城市では、受託した転作田を冬に代かきをして乾燥させて地主に返すという慣行があり、この方法を利用してはどうかということで進めたものです。冬なので労力も水も余裕があり、不耕起のもっているいろいろなデメリットを解決できる方法です。
 代かきをした後、田植機に中干し用の溝切機をつけて、溝を切ります。溝を切った後、積極的に落水はしないで、なるべく自然に乾燥させ、そこに播種します。溝切りは、播いた後に水をかぶるとまずいので行うのですが、不耕起なのでこの溝があっても関係なく播種ができます。
 不耕起代かきの効果が最も現れるのが鳥害です。直播で一番問題となるのは鳥害で、鳥害にやられるとやる気がなくなってしまうものです。調査では、冬に代かきをした圃場で播くと、播き直し、あるいは植え直しをしなかった田んぼは、652カ所のうち、1カ所もありませんでした。
 冬代かきができない場合は、収穫後の水のある時に代かきをするという方法もとられていますが、もう一つの代替手法というのは、農家を中心にいろいろな方法が考案されており、土を固めるということで、カルチパッカーを用いたり、浅く耕起しながら表面を固くしていくというような機械が用いられています。愛知県では6〜7割が冬季代かきを行っており、残りがそういった代替手法です。このための鎮圧装置は、メーカーでも新しいものを開発するということも聞いています。
冬季代かき」を代替する浅耕鎮圧

施肥は1回、出芽直前に除草剤散布
施肥は、肥効調節型肥料を使い、播種時に撒くだけです。現在愛知県では、3種類の専用肥料が経済連から販売されています。これを用いないと障害が出るので、留意が必要です。元肥として効くものと、追肥の穂肥として効くものとをブレンドしてありますので、一度撒いたら後は何もする必要はありません。
 除草剤は、播種をした後、芽が出る直前まで待って、ラウンドアップあるいはグリホサートを散布します。出芽直前というのがキーポイントですが、農家ではなかなか推定できないので、試験場の方で出芽を予測する式をもって現場に対応しています。
 それでも、ヒエは生長が早いので、シハロホップブチル剤を撒きます。圃場が固いのでこれもいつでも撒けます。クローラトラクタで稲を踏みつけて撒いても、稲の生長点が5pと非常に低い位置にありますので、影響は出ません。
 最後のポイントは殺菌剤で、この不耕起直播は2月頃から播けるわけですが、そのように早く播くので殺菌剤を着ける必要があります。そのための殺菌剤はチウラムが最適だとわかりました。
 播種後の管理は、除草剤を撒いたらあとは中干しも必要ありません。
 この不耕起直播栽培の普及状況は、今年800ha、来年は1000ha程度までいくのではないかと考えています。