昭和53年から、それまでの米余りに対応した政策が進まず、改善される状況に無いことから、日本農業の生産構造を再編する「水田利用再編対策」が強力に推進されることになった。
そして飼料生産の場として、転作田が位置付けられる時代となった。
それと時を同じくして、小生にも有り難くない転勤命令がきた。畑作農業の有畜化を図るため飼料生産の機械化に対する研究に深入りしていたのが災いとなり、小生には適性がない専門場所である草地試験場での仕事を請け負う立場になったのである。
草地試験場は、昭和47年に施設機械部が設置され、機械化第1研究室が圃場生産、第2研究室が飼料の調製加工、第3研究室が畜舎施設という体制で、小生は機械化第1研究室に所属することになった。
2)草地試験場での研究への取り組み
当時の飼料生産の機械化は、輸入機械により大規模草地で進められていた。しかしその頃から、畜産振興を図る助成事業と水田利用再編対策で飼料生産が推奨されて、輸入大型機械の利用ができない分散畑地や転作田の作業を可能とする小規模向け機械の国産化も始まり、草地試験場の施設機械部に期待されるものが大きくなってきた。
(1)長大作物の収穫作業の機械化
酪農家は生産性の向上を図るために、高品質サイレージを周年安定給与する技術の導入を目指し、多収で栄養生産性が優れ、サイレージ発酵品質も安定し、牛の嗜好も良いトウモロコシ・ソルガム等のホールクロップ作物の栽培が急速に進んだ。このためこれらホールクロップ作物の収穫作業の省力化を図る機械化が急務となっていた。
@コーンハーベスタの性能確認
長大作物のサイレージ調製には、茎や雌穂等を微切断し、子実も傷付けできる処理が必要であることから、コーンハーベスタの輸入と国産による市販化が始まった。しかし、これら機械の性能成績がなかったので、群馬畜試と共同でトウモロコシの収穫性能試験を1条刈コーンハーベスタ(国産機2台と輸入機11台)及び大型フォレージハーベスタの2〜3条刈(コーンアタッチ付き)5台について試験を実施した。その結果、所要動力が大きいこと、処理量に比例して直線的に所要動力は急増する特性があること、及び微切断性能は優れていること等を明らかにし行政の指導や酪農家の機械導入の参考資料として提供した。
Aアップカット式コーンハーベスタの開発
当時は、コーンハーベスタの作業を能率的に実施できるトラクタの装備が、酪農家になかった時代であったので、所要動力を低減した機械開発に取り組むこととした。
コーンハーベスタの所要動力の80〜90%がカッタヘッド部で消費されるため、その機構をアップカット式(刈取と同時に跳上げる)とすることで、既存機より30%程度、所要動力を低減できる機械をメーカーと共同で開発し市販化を進めた。
現在では1条刈型に加え、2条刈型も市販され、使い易い機械として酪農家に広く利用されている。 (写真1)

アップカット式コーンハーベスタによる収穫作業
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(2)水田転作飼料生産に対応する機械技術
@歩行小型コーンハーベスタの開発と不耕起播種作業の研究
水田転作では小区画の軟弱圃場条でのトウモロコシ・ソルガム等が作付けされるので、これに対応した機械技術が要求された。そのため小生は水田転作の特別研究を担当し、歩行小型コーンハーベスタの開発と不耕起播種作業について試験を実施した。
歩行小型コーンハーベスタは軟弱条件での作業を可能とするため、クローラ走行方式とし、機械重量の小さい歩行小型機を開発した。収穫物は軽トラックや小型トレーラなどに直接積み込む方法と大袋で受け道路際で積み替え運搬する方法の二方策が可能な作業体系を作った。しかし畜産の規模拡大の進みが早く、能率が小さい本機の普及定着には至らなかった。(写真2)

歩行小型コーンハーベスタによる収穫作業 |
不耕起播種作業は、軟弱な圃場でのトラクタ走行を容易とし、トウモロコシ・ソルガム等を適期に播種するため、前作のグラス類の収穫跡地に、播種位置を幅10cm程度部分耕し、同時に播種する作業方法を試験した。この結果は雨などを回避した作業の安定性は確保できたが、牧草の再生との競合に悩まされる結果となり、部分耕の幅や施肥法などの検討課題を残しながら、特別研の試験を終ることになった。
A 刈取装置付き自走式ロールベーラの研究
車輪型トラクタでは軟弱な転作田の牧草類収穫作業は、困難を伴うことが多いことからクローラ走行装置を持つ自走式ロールベーラの開発がメーカーで進められていた。そこでこれに合わせて、ピックアップ装置を刈取装置に交換した自走式ロールベーラを試作し、転作牧草類への収穫適応性を調査した。
試作した刈取装置付きロールベーラは、トラクタ作業が不可能な軟弱圃場条件でも牧草収穫が可能で、畦畔まで搬出することが能率的に実施できた。
しかし、高水分牧草類の収穫では収穫運搬の効率化はできたが、貯蔵飼料にするため調製する技術が困難であることから、エン麦等の子実を伴った作物についての収穫試験を実施し、収穫したロールベールをビニール袋に入れ密封調製するバックサイレージにする作業方法をとってみた。その結果は子実損失も少なく、効率的な収穫作業が可能で、バックサイレージに調製する新しい機械化体系を作り提示することができた。
後にロールベールをラップする技術が輸入され、更に機械化が容易となったが、一方では輸入乾草や濃厚飼料による大規模な省力酪農へと進んだため、機械化は広く普及しなかった。
我が国の農業機械化が黎明期から爛熟期を迎えるまでの31年間、私は新潟県農試、農林省四國農試、九州農試、草地試で、その時代の要請を受けた農業の生産性向上を図る農業機械化研究を進めた。
しかし、経済至上主義の中で、農産物輸入や米余りの水田転作に農業の将来展望を描けない実態に思い悩んできた。
農業は自然環境に依って立つことから、永い時を経て形成された地域農法に学び、作業の質を変革する農業機械化技術を組み立てるのが理想と考えていたが、それも叶わず無力感を味わいながら試験場での研究生活を去ることになった。 |