3) 機械化農業の稲作生産体制と問題点

(1)   稲の生産技術・機械化営農作業体系・実態

@圃場準備作業
中央平原においては農道や基盤整備が進行中で、農業機械の圃場への進入が容易になりつつあるが、中央平原以外では農業インフラの整備はこれからである。北部・西部の山間地、東北部の乾燥畑作地域では潅漑設備を含んだインフラは未整備の地域が多い。
 パワーティラー普及台数からみると北部の導入が1番である。中央平原は4輪トラクターの普及が拡大基調にあり、歩行型パワーティラーの普及は一段落したものと思われる。
 収穫後、圃場内に残される稲藁はほとんど「野焼き」され、リーパーやコンバインの普及により切り株も低くなり、ロータリー耕ができる圃場条件となってきた。農業機械研究所ではタイの土壌条件に適応する耕耘爪の開発がほぼ終わり、4輪トラクター・パワーティラーによるロータリー耕を推進し始めている。野焼きは環境問題を抱えており、今後の動向が注目される。


写真6 中央平原の稲藁の野焼き

A潅漑・揚水

中央平原は潅漑施設が発達しており、また機械化に対応した農業インフラの整備も進みつつある。用水路からの取水も容易であり、揚程が2m以下のバーチカルポンプが活躍している。末端水路の導水口へセットされているのが随所でみられた。動力はパワーティラー・4輪トラクターのエンジンからが多く、個別エンジンがセットされているバーチカルポンプもみられた。輻流ポンプも多く販売されているが、これまでの普及したバーチカルポンプが依然使われていることと、それが重くて大きなものであるが、安価でもあり、主流はいまだバーチカルポンプである。
 タイの農家の潅漑用水に対する考え方は、「水と潅漑水路は国王からの贈り物」であるため、現在進められている王立潅漑局の計画は水源建設と主水路だけで、地方政府の財政難や農家の意識改革が進まず難航している。
 一方、乾燥地帯の東北地方は土地も痩せており畑作の一期作が中心であり、水源に乏しく、地下水潅漑が多い。2001年の稲作・畑作用ポンプ潅漑計画では、給水面積でそれぞれ206.5万ライ(33.0万ha)であった。

写真7 発芽過剰の種子 写真8 ばら播き直播
B播種・田植
播種作業は前述のように直播(ばら播き)であり、直播時の圃場は約5 m x 10 m区画毎に約20 cm幅の管理用の作業溝が作られており、区画内で手播きを行っている.この作業溝は施肥・除草・防除作業時の進入路でもある。堆肥投入は圃場準備作業時に行われている。

C除草・防除
除草剤の利用が多く、機械化が遅れている分野である。除草剤低減の運動もあり、除草作業等一連の管理作業を考慮に入れた条播播種機の開発が待たれている。

写真9 タイ製コンバインの洗浄
D収穫・脱穀

 最近は、中古のエンジンや中古建設機械の走行部を用いたコンバインの普及が進んでいる。コントラクターや営農集団での利用が多い。
 タイ製のコンバインは、強力なエンジンで刈取っていく。年間の稼働時間は日本の耐用年数内の稼働時間以上であり、耐久性が重んじられている。コントラクターの利益も大きく、農家とのインタビューでも次はコンバインを買いたいとの回答が多かった。

表7 地方別稲作におけるポンプ潅漑面積の推移

地 方 1999年 2000年 2001年
1次稲作 2次稲作 1次稲作 2次稲作 1次稲作 2次稲作
ライ ライ ライ ライ ライ ライ
北  部 366,447 84,727 354,250 222,450 307,470 237,630
東  北 477,922 172,954 283,460 172,949 365,370 385,750
中央平原 274,295 256,310 278,680 60,553 256,310 184,590
南  部 7,050 119,360 19,100 109,360 10,330 121,180
全  国 1,125,714 633,351 935,490 565,312 939,480 929,150
出典: 王立潅漑局


表8 水源開発計画完了実績

No. プロジェクト名 2000年 2001年
供給量 潅漑面積 供給量 潅漑面積
百万m3 ライ 百万m3 ライ
1 中・大規模潅漑設備 31,880.83 22,665,324 29,092.62 16,297,113
2 王立潅漑計画 284.8 732,276 305.57 844,315
3 村落自衛計画 52.84 171,991 54.3 186,961
4 小規模潅漑計画 1,378.05 8,573,364 1,397.24 8,769,111
5 湿地帯掘割計画 423.4 3,168,079 473.78 3,741,091
6 構造改善・堤防掘割計画 - 11,382,304 - 11,447,926
集約化 - 591,966 - 591,966
広域化 - 1,129,211 - 1,129,211
間 接 - 3,230,257 - 3,295,879
直 接 - 6,430,870 - 6,430,870
7 稲作・畑作 ポンプ潅漑 - 1,837,009 - 2,065,410
米 1次作 - 935,490 - 939,480
米 2次作 - 629,482 - 929,150
畑  作 - 272,037 - 196,780
脱穀機はコントラクターの賃脱穀利用が経済的に有利であるため利用が進んでいる。生脱穀で一気に収穫作業を終わらせ、稲藁の野焼きを行って次の圃場準備作業等へ移っていっている。

写真10 タイ村落の旧式精米ユニット 写真11 一村一品運動のビーフン麺加工機械類
E乾燥・運搬・貯蔵・籾摺精米・加工

圃場で脱穀後生籾は袋詰され、パワーティラー・農民車・4輪トラクターにより運搬される。農家へ持ち帰り乾燥・精選後売渡したり、生籾を仲買人・地方精米所・農民市場機構(農会)・農協へ売渡す。近年の農家は籾市場価格をラジオ・新聞等で確認しながら市況に応じて売渡すようになり、天日乾燥場や粗選機を持つ営農グループもある。 農家の乾燥作業は天日乾燥が主体であるが、仲買人や地方精米所では保有能力が10トンクラスの循環型乾燥機を装備しているところもある。村落の賃搗精米は、荷受ホッパー・昇降機・粗選機(木製)・エンゲルバーグ式籾摺精米機・砕米篩を木製フレームに組込んだ精米ユニット(約50〜100 kg/hr籾)で2〜3回通しで籾摺精米を行っている。砕米発生が多く、歩留は悪いが、業者は砕米・糠が賃搗料であるため依然活用されている。地方精米所が近代的な日本式精米方法に切り替えており、賃搗精米所は衰退気味である。タイにおける米穀の流通経路を図3に示す。

図3 タイにおける米穀の流通機構
出典: 平成元年度 食糧庁ODA・穀物の収穫後処理技術協力推進事業
技術手引書および海外農業事情調査報告書(タイ・マレーシア)

(2) 機械化の動向および機械化の諸問題

 1998年に農業人口が60 %を割ってからもアジア経済危機の後遺症で急激な農業人口の減少は起こっていない。FAO Statbase 2002によると2001年は48.2 %と、50 %を割った報告もある。
 中央平原とその他の地域の格差は依然大きい。農業収入だけで生活が成り立っている農家はまだ限られている。中央平原では2年5作が可能であり、農外収入の道も徐々に開けてきており、機械化営農がタイの農業を支えていると言っても過言でない。


表9 農業人口・農業労働力の推移
単位: 1,000人
人    口 労 働 力
農 業 非 農 業 比 率 % 農 業 非 農 業 比 率 %
1992 36,245 21,784 58,029 62.46 19,684 13,328 33,012 59.63
1993 36,540 22,143 58,683 62.27 19,833 13,546 33,379 59.42
1994 36,491 22,615 5,335 61.88 19,914 13,833 33,747 59
1995 36,855 23,130 59,985 61.44 19,969 14,146 34,115 58.53
1996 36,943 23,690 60,633 60.93 19,999 14,486 34,485 57.99
1997 37,008 24,270 61,278 60.39 20,016 14,839 34,855 57.43
1998 36,948 24,974 61,922 59.67 19,959 15,265 35,224 56.66
1999 36,783 25,780 62,563 58.79 19,843 15,753 35,596 55.75
出典: 農業経済研究部、 農業経済室
表10 所有形態別農機具所有者数(1998年)から見ると4輪トラクター・コンバイン・脱穀機の所有はコントラクターが圧倒的である。農家は経済的に有利な機械化営農を選び、荒起し・脱穀作業はコントラクターを多く利用している。パワーティラーや噴霧機は、農家個人でも所有できる経済環境になっていると推察できる。農業後継者不足で、農業機械化はさらに加速されている。農家も歩行型パワーティラーの重労働から開放され、乗用型パワーティラーや水田用4輪トラクター買い替えへの希望が多い。コンバイン収穫のコントラクター業がもてはやされており、収穫および収穫後処理作業もすっかり変わってきた。
 ロータリー耕が復活の兆しを見せている。これは収穫後の圃場内稲藁の処理を「野焼き」を行うことによって可能となったものであり、環境問題として今後議論が起こる可能性がある。堆肥利用には量的に多すぎ、経済的な稲藁の処理方法の開発が必要である。
 今一番機械化が遅れているのは播種作業とそれに続く除草作業である。水田用条播機の開発と栽培技術の確立が待たれている。
 今後の農業機械化で一番大きい問題は「農作業安全」である。統計等のデータ−は無いが、農業機械訓練センターでの聞取りでも農作業事故は多発している。安価で不安全な機械の普及から貴重な人的資源を守る行政にシフトする時代となっている。


表10  所有形態別農機具所有者数  (1998年)

農業機械名 所 有 形 態
農  家 組合・グループ コントラクター 政府組織 その他
4輪トラクター 4輪トラクター 139,666 3,813 1,032,337 3,036 8,265
25 PS 以下 60,722 1,965 156,537 31 2,600
25−40 PS 24,692 1,409 123,355 72 1,005
40 PS以上 46,365 371 632,760 2,268 3,820
不  明 7,837 68 119,690 665 840
パワーティラー 1,930,195 3,111 1,660,112 2,131 91,911
揚水ポンプ エンジン 1,304,205 5,357 306,437 11,987 68,448
電動機 272,039 13,941 11,019 8,796 2,832
自然エネルギー 3,062 446 632 5,345 4,406
噴霧機 手  動 1,632,788 7,609 351,379 2,802 118,592
エンジン 430,021 1,014 182,470 544 17,649
除草機 エンジン 193,942 1,215 79,953 351 13,132
パワーティラー装着 78,205 - 32,434 - 788
収穫機 リーパー 7,151 807 269,618 84 778
コンバイン ハーベスター 3,341 1,049 353,390 48 1,441
脱穀機 米  用  42,546 14,159 2,050,407 202 8,236
大 豆 用 855 849 52,102 - 381
兼  用 167 769 26,025 - 61
トウモロコシ(脱粒機) 5,827 29 272,880 7 756
唐  箕 6,176 1,521 116,531 - 5,191
精 米 機 40,712 10,118 2,456,464 744 254,031
搾 乳 機 3,580 12 6,454 - 703
輸送手段 トラック 615,365 10,932 2,233,873 2,547 109,886
バイク 1,348,985 1,025 7,991 - 5,585
自転車 481,721 444 2,485 - 408
34,502 21 4,922 115 1,699
農用トラック 825,846 4,701 766,100 428 62,560
畜  力 畜  力 389,783 60 22,158 66 8,621
24,094 60 1,895 - 2,275
水牛 365,689 - 20,263 66 6,346

注:  1台以上持っている農家はそれぞれの型式の農機具の報告あり
出典: 1998年農業センサス 中央統計事務所、首相府

表2−11 水牛頭数の推移

地  方 1999年 2000年 2001年
北  部 228,061 201,682 176,421
東  北 1,509,499 1,350,527 1,204,101
中央平原 122,751 113,199 101,697
南  部 51,207 46,165 41,408
全  国 1,911,518 1,711,573 1,523,627

政府は村落の「一村一品運動」を進めており、ビーフンの乾麺、乾燥果物等が各村落の営農集団で加工されている。そのための農産加工機械が助成金を得て導入されているが、特徴のない商品が多い。各村落は詳しい市場調査なしで商品を決めており、地元名産品の発掘という作業も行われていない模様である。  (以上)