ミャンマーにおける農業機械化技術協力の技術指針

-農業機械分野-(要約)

  1. 国家農業開発計画
     一般に開発途上国では、国土の有効利用と急激な人口増加に対応した食糧の安定的生産を図るため国家社会開発の中に農業開発とそれに基く農業生産の拡大を常に重点課題として位置付けている。
     ミヤンマーでは、計画経済から市場経済への転換が図られており、新五カ年国家開発計画(1996/97〜2000/200年度)では米を中心とした農業分野の発展が掲げられている。そのために稲作技術の開発とその普及が強く求められている。
     ミャンマーは、農業機械化行政を国の総局レベルで実施している唯一の国である。そこで、農業機械化技街協力に当たっては、国家開発計画における農業機械化推進の位置付けを事前に調査し、経済発展状況、稲生産技術に係る機械化の推進状況を踏まえて実施する必要がある。開発計画は社会・経済の動向によって改変されることがあるので留意が必要である。

  2. 稲作技術革新と機械化
     ミャンマーの農業では稲作が基幹作物で、稲が全作物の播種面積の73%を占めている。
    計画経済による作付・栽培計画の強制および稲作の革新技術は、品種改良の段階から化学肥料の使用、農薬の使用、農作業の機械化へと進みつつある。
    品種改良については1970年代の前半からIR系の高収量品種(HYV)の導入・普及が図られるとともに、在来品種との交配によって生育期間の短い新HYVを育成して普及させ、現在HYVは、全体の約70%を占めている。
    しかし、肥料・農薬の国産化が遅れ、輸入に依存しているため、外貨保有額に左右されて供給は不安定である。
    こうした中でもHYVとのセットとして農家に普及して、稲の生産力を向上させて往年の米輸出国に戻りつつある。
    ミヤンマーはもともと肥沃なエーヤワーデイ(イラワジ)河デルタを中心に生産される米の輸出国であって、1980年代からの動乱や後述の自由化により生産・供出量が低下していた。

     一方、農業機械化は、1農家当りの平均耕作面積が約2haあることや、また従来からあった牛耕による賃耕システムを背景に農業機械化局(AMD)のトラクタ ステーションを中心に発展しているが、近年では民間業者の組織もできて、官・民での住み分けもなされている。
    農業機械は、耕転・整地作業にトラクタや、パワーティラ、脱穀に動力スレッシャー、潅漑にポンプが、HYVを導入した地域の農家を中心に普及しつつある。

     農業機械化技術協力に当たっては、協力地域における農家・営農集団の稲作技術水準に関して品種を基幹とする栽培技術の実態のほか、以下の項目を調査した上で基き実施することが必要である。

    1. 国の機械化行政組織
    2. 農家・組織の資金
    3. 融資制度
    4. 農家・営農集団の営農(技術・経済)能力
    5. 従来の賃耕・田植・収穫・賃脱穀・賃搗システム
    6. 普及組織指導システムの実態
    7. 補修部品市場
    8. 大型補修サービス体制等

     なお、在来品種による伝統的農業を行っている地域・農家に対しては、小農具の普及と伝統農具の改良を中心に進めることになろう。


  3. 農業機械の開発と製造
     ミャンマーでは、農業機械化局(AMD)傘下の3つ農業機械工場と第2工業省傘下の第1工場(農業機械)がある。
    ヤンゴンにあるAMD第1工場とマンダレーにあるAMD第2工場の主力生産機種は12〜16馬力クラスのパワーティラ、8馬力クラスのパワーティラであり、この外、トレーラ、リーパ、スレシヤ等も生産している。
    ただし、エンジンおよび変速機は中国からの輸入であり、また、設備の大半は30年前の古いもので、生産技術・工場運営・品質管理等あらゆる面で遅れている。

     さて、適正農業機械の研究・開発・製造の技街協力に当たっては、これまでの民間技術協力の手法・努力を把握した上、当面RNAM(後述のESCAPの組織)レベルの水準に持って行くことが重要である。
    試験研究設備が皆無である現状から、インドネシアの「適正農業機械技術開発センター計画」が見本となろう。
    農業灌漑省からは、ミャンマーODA復活の折はこのプロジェクトを最優先して欲しいとの要請がなされた。

     これまでの民間技術協力による稲作機械化栽培調査・指導のノウハウが蓄積されており、この活用が無駄を省き、スムースな技祈協力の橋渡しとなる。その一方で民間の技街協力に対する何らかの援助も重要であろう。

     製造技術移転に当たっては、将来の民営化を充分考慮しつつ、適正農業機械技術開発センター(仮称)による研究開発、国定検査等を通しての生産技術、品質のレベルアップ、JICA農業機械関連集団研修、文部省留学制度を通して研究者のレベルアップ等を図る必要がある。


  4. 日本の民間技術協力
     昭和30年(1955年)から、(社)農業機械海外技術振興協会は、ビルマ事務所を開設し、「ビルマ農機具類サービスセンター計画」を実施した。
    このセンターでは日本式の機械化営農技術、農業機械・農具の整備・修理等の技術移転、各州におけるデモンストレーション等がなされた。
    それ以前のビルマではソ連式・米国式の大型機械化農業が失敗しているので、日本式農業機械化技術に転換が行われた初のプロジェクトであった。

     このプロジェクトでは農業機械の性能試験(国定検査)技術を除き、今日のODA日本式農業機械化プロジェクトの項目が総て実施されていた。

     また、1970年(昭和45年)から4年間にわたり新潟クボタは、第2工業省重工業公社第3重工業局の要請により同工場の管轄する第1農場を設置して、工場で製作された農機具を利用した水稲機械化体系の基磋調査、試験、日本式栽培技術の指導を実施し、また日本から送られてきた見本機の性能試験、現地適応性の調査等を実施して来た。

     こうした先達の業績を整理活用して行くことは、21世紀の「機械化栽培技術普及プロジェクト」への取り組みを行う上で大切なことであろう。付録「別紙」を参照されたい。


  5. 農業機械の普及
    ミヤンマーでは全国に90ケ所のトラクターステーションを配置し、農家への貨耕サービスを行っているように、ミャンマーの農業機械の使用形態は賃耕が基本である。 トラクタ ステーションの保有する4輪トラクタによる作業は、耕起・砕土・均平作業までであり、代掻き作業は民間の賃耕業者のパワーティラによっている。ただし、依然として牛による作業が多い。
    なお、民間の業者でも4輪トラクタ、パワーティラを保有して受託耕作を行っているところもある。

     さらに、ミャンマーでは、機械化農業を推進するためにモデル機械化農場プロジェクトを1996年から開始し,第1段階で各管区・州に1村、第2段階では各県に1村、第3段階では各郡に1村、第4段階では各町に1村、そして最終段階で全国の各村にこれを設置する計画がなされている。
    現在第2段階に入っており、全国に23ケ所にこのモデル機械化農場が、配置されている。なお、現段階ではトラクタキャンプもあって女性オペレータの養成も行われている。

     農業機械化技術の普及・協力に当たっては,機械化普及組織と普及実態を事前に調査して技術協力計画を立てる必要がある。
    また、地域によって経営規模、農地の整備状況、雇用労働者数、労賃等が異なるのでそれらと共に農家の技術水準、営農能力を事前に調査しておく必要があり、全国画一的な対応は好ましくない。
    特に末端では農業機械化情報が乏しいのでこの点留意を要する。
    今後は農村女性活用のため、女性オペレータの養成を重視することも必要となろう。


  6. 機械化営農
     ミャンマーの平均耕作面積は、2.24haであり、その内、2ha以下の農家が62%であるが、2〜8haの農家が36%あり、また、2〜8haの農家が農地の60%を占めていて、比較的経営規模が大きい。
    しかし、農家個人でトラクタ・パワーティラ・スレッシヤ等を導入し得る農家は数ha以上の大規模農家に限定されている。
    そのため、中小規模の農家の機械化の基本は受託賃耕・脱穀にならざるを得ない。
    従って中・小規模の機械化は、20〜30戸による耕作組合を組織し、共同で機械を導入しての貸耕や脱穀を行うのが望ましく、そのほか、トラクターステーション、トラクタキャンプ等政府の機械、民間業者の機械に依存することになろう。
    ただし、将来、官営のトラクターステーションは、民間業者の台頭で民営化に移行することも考慮に入れる必要がある。

     機械化営農の農家の殆どは、HYVを使用し、化学肥料・農薬を抱き合わせた技術構成をしているので米の生産コストが高く、省力化や有機肥料の利用による肥料コストの低減が必要である。
    一方機械化によって生ずる余剰労働力の活用は、避けて通ることはできない問題である。
    特に、土地無し農民、小規模農家の労働力活用のために農村工業、特に地域資源を活用した自前のアグロインダストリの育成を必要となろう。

     機械化営農技術協力に当たっては、耕作組合の組織化、機械の共同利用システム、乾季作に輸出作物の豆作の導入、または3期作による耕地利用の高度化、水田に内水面漁業を取り入れた総合営農サイクル等を組み合わせた技術協力計画を立てることが大切である。


  7. 機械化農業生産体系
     稲作作業技街の機械化は、耕起・整地から収穫・収穫後処理作業の一連の機械化を最終目標とすることになろう。
    しかし、ミャンマーでは中・小規模農家が多く、稲作栽培技術の発展段階にも地域差があり、全国一律の適正農業機械化技術、機械化営農はあり得ない。
    現在の機械化は耕起・整地・脱穀にとどまっているが、将来的には、移植栽培地域では、機械化移植やコンバイン収穫、直播地域では、コンバイン収穫の体系もあり得る。
    一方機械化営農も、全作業を機械化する必要はなく、現在の経営面積、労働力、技術水準に応じて機械・人力、機械・畜力を組み合わせた営農体系であっても良い。

     機械化営農技術の協力に当たっては、「経営規模別農業機械化営農現地実証」、「人力・畜力・農機の複合営農現地実証」、「農業機械の共同利用システム」、「農地の高度利用のための機械化営農」等の事前検討を行う必要があろう。


  8. 東南アジア地域における農業機械化技術指標
     世界的に米・麦・トウモロコシは3大主用穀物と呼ばれる。FAOの資料では1996年現在の生産量は、米が4億6千万トン、小麦が5億4千万トン、トウモロコシが5億8千万トンで、いずれも5億トン前後である。
    小麦とトウモロコシは国際商品であるが、米は貿易量が極めて少なく、国際性が低いという点で大きな違いがある。ちなみに、小麦は総生産量の21%、トウモロコシは16%が貿易量とみてよいが、これに対して米はわずか3.2%に過ぎない。
    かって、ヴイエトナム・カンボジア・タイ・ミャンマーは、米の主要輸出国であった。
    1960年代の後半から「緑の革命」が東南アジアの潅淑地域を中心に広まり、IRRIで開発された高収量品種・改良品種の導入が化学肥料の投入と平行して進められた。
    IRRIの稲作技術の普及によってフィリピン・インドネシア・スリランカ等従来輸入米に強く依存してきた諸国において増産は頼著な効果を上げてきた。
    その結果、米輸入国・輸出国が不鮮明となった。
    その中でタイは輸出を伸ばす一方で、ミヤンマー・ヴイェトナムも徐々に輸出国として後活してきた。これは東南アジア市場が大きくなっただけでなく、異常気象や従来米を食べなかったアフリカ諸国の需要が起こったことが大きい。

     アジアの米の生産量は世界生産量のほぼ90%を占める。
    また、アジアの米生産量のうち約50%をインドネシア・タイ・バングラデシュ・ミャンマー・フィリピン・マレーシア・ヴイエトナム等東南アジアで生産している。
    東南アジアでは米が主食であり、基幹農作物であるので各国ともその増産には積極的である。
    新しい技術としてHYVと化学肥料・農薬のセット技術、更に農業近代化技術として稲生産所要労働時間の短縮、過重労働からの解放、生産コスト低減等を意図した機械化を進めつつある。

     工業化の進展とともに若年労働者の都市への移動、農業労働者の減少、労賃の上昇等に対応して、稲作栽培技祈的には移植栽培から直播栽培へ、作業技術的には手労働の機械化促進が一つの流れとなっている。
    国別に稲作機械化技術指標を作成しておくことは、技術協力に多く寄与するものと考えてる。