機械化農業の生産体制

●機械化営農の実態●
●機械化の諸問題●

機械化営農の実態
前述のようにスリランカの農業機械化は進んでいる。経営面積の大きい農家は自前でパワーティラーを所有しており、営農組合での所有もある。中山間地の零細農家は、牛・水牛による圃場準備作業が主体であるが、貧農に対しては農地支援局系列のトラクター ハイヤリング サービスが、効果的に機能している。潅漑の整った半乾燥地域等の穀倉地帯では総ての農家が機械を所有している訳ではなく、官・民のサービスを利用している。表9に農地支援開発局系列のトラクター ハイヤリング サービス料を示す。官民のサービス料金の差はあまり無い。調査を行った中心となる穀倉地帯でもパワーティラーや4輪トラクターを所有している農家は2〜3割程度で、多くの農家が官・民のハイヤリング サービスを利用している。耕耘2回、代掻き1回が標準的な作業である。圃場内残藁が少なく、切り株も短いためロータリー耕が多い。一般にパワーティラーは「ランドマスター」または「クボタ」と呼ばれている。
 田植の比率は1998年で10.9 %(正条植:1.2 %、乱雑植:9.7 %)である。女性10人程度を雇い、2エーカー(0.8 ha)で2〜3日かけている。バラマキ直播で機械除草が難しく、除草作業は手除草で1作1回程度である。国道に沿って除草剤メーカーの看板と利用圃場と利用していない圃場の比較展示が随所で見られた。除草剤の普及は約77%と進んでいる。
 収穫は手刈が多く1エーカー当り8〜10人/日で、労賃は男Rs 275/人/日、女Rs 225/人/日程度である。リーパー・コンバイン利用も普及し始めている。表10に農作業労賃(日当)の推移を示す。表11に2001年ヤラ期における米の生産コストを今回調査を実施した地域のアヌダラプラ(潅漑)、クルネガラ(天水田)、キャンディ(天水田)、カルタラ(天水田)について示す。
 
表9 農地支援開発局系列のトラクター ハイヤリング サービス料(2001年5月)
作業名 単 位 料 金
1 デイスク プラウ賃耕作業 1 エーカー Rs.1,250.0
2 ツースハロー砕土作業 1エーカー Rs.1,100.0
3 脱穀作業 1ブッシェル(24 kg) Rs.250.0
4 トレーラー賃貸(運搬) 1日 Rs.1,200.0
5 4輪トラクター賃貸 Hrメーター時間 Rs.2.5
6 リーパー賃貸 1エーカー Rs. 800.0
7 パワーティラー賃耕 1エーカー Rs.?900.0
8 コンバイン賃収穫作業 1エーカー Rs.3,750.0
出典:農地支援開発局
表10 農作業労賃(日当)の推移
作  業 1979 1996 2001
稲 作 耕耘作業(男) Rs19 Rs 173 Rs 244
運搬作業(男) Rs 15 Rs 148 Rs 239
運搬作業(女) Rs 12 Rs 115 Rs 199
収穫作業(男) Rs 16 Rs 147 Rs241
収穫作業(女) Rs12 Rs 117 Rs 205
紅 茶 圃場準備作業(男) Rs 13 Rs 136 Rs 233
茶 摘(女) Rs 10 Rs? 93 Rs 162
出典: スリランカ中央銀行 社会経済データ 2002 Vol. XXV

表11 2001年ヤラ期における米の生産コスト(1)
地域 作業内容 回答率 労 賃 農機具コスト 投入資材費 合 計
% Rs/エーカー Rs/エーカー Rs/エーカー Rs/エーカー
アヌラダプラ (潅漑) 圃場準備作業 96 178.75 - - 178.75
トラクター(耕起2回、砕土1回) 67 - 2,651.95 - 2,651.95
畦塗り 100 1,543.99 - - 1,543.99
均平・バラマキ直播 100 834.65 - 1,022.20 1,856.85
施肥 100 202.5 - 2,173.92 2,376.42
除草剤散布 98 156.87 - 922.97 1,079.84
防除作業 78 177.08 - 577.11 754.19
水管理 65 1,048.17 - - 1,048.17
収穫・運搬 100 2,649.30 - - 2,649.30
4輪トラクターによる脱穀 96 1,035.55 521.21 - 1,556.76
扇風機による風選 98 536.23 244.46 - 780.69
籾の貯蔵庫への運搬 89 - 206.42 - 206.42
合 計 8,363.09 3,624.04 4,696.20 16,683.33
クルネガラ (天水田) 圃場準備作業 100 171 - - 171
2輪トラクター 66 - 2,435.52 - 2,435.52
畦塗り 100 1,409.51 - - 1,409.51
均平・バラマキ直播 91 1,037.79 - 819.68 1,857.47
施肥 100 209.25 - 2,086.66 2,295.91
除草剤散布 85 148.2 - 743.21 891.41
防除作業 62 90 - 569.5 659.5
水管理 60 1,639.00 - - 1,639.00
収穫・運搬 100 2,671.61 - - 2,671.61
4輪トラクターによる踏圧脱穀 79 1,050.96 538.83 - 1,589.79
扇風機による風選 83 628.04 257.53 - 885.57
籾の貯蔵庫への運搬 94 76.46 166.76 - 243.22
合 計 - 9,131.82 3,398.64 4,219.05 16,749.51
出典: 2001年 Yala期における農産物生産コスト 2002年7月、農業局社会経済計画センター

機械化の諸問題

農業労働力の減少・労賃の高騰により現在のスリランカの営農は農業機械化で成り立ってきている。スリランカでは貧困農業層は出稼(国内外)・他産業への移動、資金や意欲のある農家は農地の買取りや借地契約で経営面積を拡大して経営を安定させている。農業の発展を見る場合、農業を取り巻く経済を無視して発展はありえない。多くの発展途上国はこうした労働力の移動ができる産業が乏しく、都市へのアクセスが困難である。日本と同様に、狭い国土が産業間の労働力移動を容易にしている。

 現在普及している農業機械の多くは日本からの中古品や中国製品で、インド製品も徐々に輸入されている。中国製・インド製の新製品は日本の中古に比べても耐久性が劣り、下取り価格も低い。中古製品は零細な輸入業者により入ってきており、メーカーの品質補償の届かない、いわば闇のルートである。農家経済の向上により正式なメーカー製品が普及するものと考えられる。

 前述したように4輪トラクターのスペアパーツは、運営するトラクター ハイヤリング サービスを行う官民組織のスペアパーツ供給システムの問題である。ミャンマーでは新車の4輪トラクターや部品が輸入されていない中でサービスが行われている。狭いスリランカにおいて部品の加工できる工場までのアクセスはミャンマー等に比べそれほど遠くはない。代理店・販売店の日・欧米の純正部品・コピー部品の流通システム、地方工場の機械設備等を把握し、改善案の検討・方針決定を早期に行うことで解決できる。官民とも計画経済の後遺症は随所に残っていることを理解することも大事である。

 農業機械研究センターは農家が必要としている水田用条播機(器)、水田用4輪トラクター、コンバインの開発に取組んでいるが、センターの設計技術・生産技術は旧時代の技術である。日本や欧米のメーカーとの共同開発研究等を通して技術向上を図る必要がある。水田用条播機(器)は、現在の技術水準で開発製造が可能であるが、トラクター・コンバインとなると高い技術・新しい製造機械の導入が必要とされる。

 農業機械研究センターの検査設備は旧式の機材がほとんどである。設計用のCADも無く、開発設計・試作に多くの時間がとられている。農業機械化がこの国の農業を左右する現在の状況を鑑みると、試作工場の製造機械も含め検査分析装置ワークショップの検査・修理工具等のリハビリを早急に行う必要がある。またJICA研修の卒業生も多く、彼らを核に官民共同で農地支援開発局等と「スリランカ農業機械化協会(案)」を設立し、基礎技術・修理技術・機械化営農マニュアル・安全作業等のソフトを強化・充実させる必要がある。 現在使用されている農業機械は、食糧増産援助(2KR)で供与された機械を除き、農作業安全対策が極めて不充分である(写真:扇風機装着パワーティラー等を参照されたい)。死亡事故・損傷等の統計的な資料がないが、安全指導と安全対策が施された機械の普及が急がれる。

 収穫後処理技術の改善も急がれる。前述ようにスリランカで食される米のほとんどがパーボイルド米であり、サイズ・形状が大きく異なり加工技術も複雑となる。「サンバ種」等の極小粒の銘柄米等は高値で取引されている、一方食味の悪い米は仲買人が買い取らず、安値で手放さざるをえない。ロスの軽減のためには収穫作業から圃場乾燥・農家での乾燥貯蔵・仲買人の緒設備・精米工場(所)のパーボイル処理設備・検査技術・籾摺精米技術・流通インフラ(倉庫等)等の改善が必要とされる。(以 上)


機械化の諸問題

農業労働力の減少・労賃の高騰により現在のスリランカの営農は農業機械化で成り立ってきている。スリランカでは貧困農業層は出稼(国内外)・他産業への移動、資金や意欲のある農家は農地の買取りや借地契約で経営面積を拡大して経営を安定させている。農業の発展を見る場合、農業を取り巻く経済を無視して発展はありえない。多くの発展途上国はこうした労働力の移動ができる産業が乏しく、都市へのアクセスが困難である。日本と同様に、狭い国土が産業間の労働力移動を容易にしている。

 現在普及している農業機械の多くは日本からの中古品や中国製品で、インド製品も徐々に輸入されている。中国製・インド製の新製品は日本の中古に比べても耐久性が劣り、下取り価格も低い。中古製品は零細な輸入業者により入ってきており、メーカーの品質補償の届かない、いわば闇のルートである。農家経済の向上により正式なメーカー製品が普及するものと考えられる。

 前述したように4輪トラクターのスペアパーツは、運営するトラクター ハイヤリング サービスを行う官民組織のスペアパーツ供給システムの問題である。ミャンマーでは新車の4輪トラクターや部品が輸入されていない中でサービスが行われている。狭いスリランカにおいて部品の加工できる工場までのアクセスはミャンマー等に比べそれほど遠くはない。代理店・販売店の日・欧米の純正部品・コピー部品の流通システム、地方工場の機械設備等を把握し、改善案の検討・方針決定を早期に行うことで解決できる。官民とも計画経済の後遺症は随所に残っていることを理解することも大事である。

 農業機械研究センターは農家が必要としている水田用条播機(器)、水田用4輪トラクター、コンバインの開発に取組んでいるが、センターの設計技術・生産技術は旧時代の技術である。日本や欧米のメーカーとの共同開発研究等を通して技術向上を図る必要がある。水田用条播機(器)は、現在の技術水準で開発製造が可能であるが、トラクター・コンバインとなると高い技術・新しい製造機械の導入が必要とされる。

 農業機械研究センターの検査設備は旧式の機材がほとんどである。設計用のCADも無く、開発設計・試作に多くの時間がとられている。農業機械化がこの国の農業を左右する現在の状況を鑑みると、試作工場の製造機械も含め検査分析装置ワークショップの検査・修理工具等のリハビリを早急に行う必要がある。またJICA研修の卒業生も多く、彼らを核に官民共同で農地支援開発局等と「スリランカ農業機械化協会(案)」を設立し、基礎技術・修理技術・機械化営農マニュアル・安全作業等のソフトを強化・充実させる必要がある。 現在使用されている農業機械は、食糧増産援助(2KR)で供与された機械を除き、農作業安全対策が極めて不充分である(写真:扇風機装着パワーティラー等を参照されたい)。死亡事故・損傷等の統計的な資料がないが、安全指導と安全対策が施された機械の普及が急がれる。

 収穫後処理技術の改善も急がれる。前述ようにスリランカで食される米のほとんどがパーボイルド米であり、サイズ・形状が大きく異なり加工技術も複雑となる。「サンバ種」等の極小粒の銘柄米等は高値で取引されている、一方食味の悪い米は仲買人が買い取らず、安値で手放さざるをえない。ロスの軽減のためには収穫作業から圃場乾燥・農家での乾燥貯蔵・仲買人の緒設備・精米工場(所)のパーボイル処理設備・検査技術・籾摺精米技術・流通インフラ(倉庫等)等の改善が必要とされる。(以 上)

機械化の諸問題

農業労働力の減少・労賃の高騰により現在のスリランカの営農は農業機械化で成り立ってきている。スリランカでは貧困農業層は出稼(国内外)・他産業への移動、資金や意欲のある農家は農地の買取りや借地契約で経営面積を拡大して経営を安定させている。農業の発展を見る場合、農業を取り巻く経済を無視して発展はありえない。多くの発展途上国はこうした労働力の移動ができる産業が乏しく、都市へのアクセスが困難である。日本と同様に、狭い国土が産業間の労働力移動を容易にしている。

 現在普及している農業機械の多くは日本からの中古品や中国製品で、インド製品も徐々に輸入されている。中国製・インド製の新製品は日本の中古に比べても耐久性が劣り、下取り価格も低い。中古製品は零細な輸入業者により入ってきており、メーカーの品質補償の届かない、いわば闇のルートである。農家経済の向上により正式なメーカー製品が普及するものと考えられる。

 前述したように4輪トラクターのスペアパーツは、運営するトラクター ハイヤリング サービスを行う官民組織のスペアパーツ供給システムの問題である。ミャンマーでは新車の4輪トラクターや部品が輸入されていない中でサービスが行われている。狭いスリランカにおいて部品の加工できる工場までのアクセスはミャンマー等に比べそれほど遠くはない。代理店・販売店の日・欧米の純正部品・コピー部品の流通システム、地方工場の機械設備等を把握し、改善案の検討・方針決定を早期に行うことで解決できる。官民とも計画経済の後遺症は随所に残っていることを理解することも大事である。

 農業機械研究センターは農家が必要としている水田用条播機(器)、水田用4輪トラクター、コンバインの開発に取組んでいるが、センターの設計技術・生産技術は旧時代の技術である。日本や欧米のメーカーとの共同開発研究等を通して技術向上を図る必要がある。水田用条播機(器)は、現在の技術水準で開発製造が可能であるが、トラクター・コンバインとなると高い技術・新しい製造機械の導入が必要とされる。

 農業機械研究センターの検査設備は旧式の機材がほとんどである。設計用のCADも無く、開発設計・試作に多くの時間がとられている。農業機械化がこの国の農業を左右する現在の状況を鑑みると、試作工場の製造機械も含め検査分析装置ワークショップの検査・修理工具等のリハビリを早急に行う必要がある。またJICA研修の卒業生も多く、彼らを核に官民共同で農地支援開発局等と「スリランカ農業機械化協会(案)」を設立し、基礎技術・修理技術・機械化営農マニュアル・安全作業等のソフトを強化・充実させる必要がある。 現在使用されている農業機械は、食糧増産援助(2KR)で供与された機械を除き、農作業安全対策が極めて不充分である(写真:扇風機装着パワーティラー等を参照されたい)。死亡事故・損傷等の統計的な資料がないが、安全指導と安全対策が施された機械の普及が急がれる。

 収穫後処理技術の改善も急がれる。前述ようにスリランカで食される米のほとんどがパーボイルド米であり、サイズ・形状が大きく異なり加工技術も複雑となる。「サンバ種」等の極小粒の銘柄米等は高値で取引されている、一方食味の悪い米は仲買人が買い取らず、安値で手放さざるをえない。ロスの軽減のためには収穫作業から圃場乾燥・農家での乾燥貯蔵・仲買人の緒設備・精米工場(所)のパーボイル処理設備・検査技術・籾摺精米技術・流通インフラ(倉庫等)等の改善が必要とされる。(以 上)